プログラミングで課題解決型学習を実践─マインクラフトで「未来の青山学院」をつくろう!
2024/03/07
目次
2017(平成29)年に告示された新学習指導要領において、2020年より小学校でのプログラミング教育が必修になりました。それに先がけ、青山学院初等部では民間のプログラミング教室として5万人以上の児童にプログラミング教育を行ってきた株式会社CA Tech Kids(シーエーテックキッズ)と提携し、同社と共同で楽しみながらプログラミングを学ぶ授業を展開しています。
青山学院初等部プログラミング授業を詳しくご紹介
CA Tech Kidsとの共同授業の開始から3年目を迎えた今年、同社のノウハウをいかした新たな取り組みとして、2023年12月の冬休み某日、本学初等部5・6年生の希望者を対象にした特別ワークショップが本学初等部で開催されました。人気ゲーム「マインクラフト」の教育版(Minecraft Education)を使ってみんなで「未来の青山学院」を建築しようという企画です。
もともとこのワークショップは、プログラミングを活用した企業向けの研修プランをCA Tech Kids社が小学生向けに応用したものです。画期的だったのは、子どもに興味をもってもらうためのツールとして人気ゲームの「マインクラフト」を使うというアイディア。青山学院初等部の井村裕講師が同社にこの提案を投げかけ、さらにこれを問題解決型の学習に昇華させるため、両者が話し合いを重ね、本イベントが実現することとなりました。
2日にわたるこのイベントに集まったのは元気いっぱいの本学初等部5・6年生18人。そして今回子どもたちをご指導くださるのは、CA Tech Kidsのコンテンツ開発責任者である松倉健悟さん、通称マツケン先生と、同社スタッフのメンターの皆さん。
さあこの2日間でどんな冒険が繰り広げられたのでしょうか。詳しくご紹介していきましょう。
今回のプログラムでは参加児童18人がABCDの4つのグループに分かれ、4~5人のメンバーが共同で作業を進めていきます。子どもたちは皆お互いに顔を見知ってはいますが、まだ集まったばかりでなんだか少しかしこまった様子。そこでマツケン先生は自己紹介タイムのあと、紙を使ったグループ対抗ゲームを行い、メンバー同士のコミュニケーション活性化を図りました。
アイスブレイクタイムですっかり打ち解けた子どもたち。マイクラPC版の基本操作を学んだあと、最終的なゴール「未来の青山学院をつくる」にとりかかる前に、まずは「未来の教室」をテーマにグループごとで話し合いを行いました。子どもたちの思う理想の教室とはどのようなものなのでしょう。思い思いの意見が飛び出し、ホワイトボードにアイディアが次々とリストアップされます。マツケン先生やメンターの先生たちのアドバイスを聞きながら、それらを設計図のかたちにまで落とし込んでいきます。
さて、お昼休みをはさんで午後になると、今度は午前中にまとめた「未来の教室」の設計図を、実際にマインクラフトで制作してみます。日常的にマイクラで遊び慣れている子どもたちですから、操作はお手のもの。ブロックを器用に一つ一つ積み上げたり、レンガを床に隙間なくびっしりと敷きつめたりといった地道な作業を手早く進めていきます。そんななかでも感心するのは、どのチームでも自然とメンバーの役割が分担され、多くの児童がお互いの進捗状況を把握しながら自分の作業を進めていること。この日の朝にチームメイトになってまだ数時間でありながら、意思の疎通と信頼関係の構築がなされている様子は頼もしいばかりです。
ある程度工程が進んだので、次の段階へと移りました。マインクラフトで“エージェント”とよばれるキャラクターにプログラムを覚えさせるという試みです。“エージェント”とはプレイヤーが作成したプログラムに沿って動作する、マイクラ世界のロボットのこと。“エージェント”を使いこなすことによって、これまで子どもたちが手動で行ってきた作業を劇的に効率化することが可能になります。
ここまでの演習で子どもたちは「未来の教室」のイメージをある程度かたちにすることができました。次はいよいよ最終目標である「未来の学校」の建築に向けて作業を進めます。
まずは「どんな学校をつくるか」をグループごとにホワイトボードに書き出していきます。朝からの共同作業ですっかり意気投合し、子どもたちの発言はますます活発化してきましたが、ホワイトボードに並んだ文字や図を見ながら、マツケン先生は少し心配げな表情。楽しさや奇抜さを追求することに夢中になりすぎて、「学校」という本来の目的から少しずつ離れしまっているグループもあるようです。
「未来の学校」のアイディアをグループごとにまとめたところで第1日目は終了。マツケン先生やメンターの先生たちと一緒に、考える道筋やアイディアの立て方を学び、目的を達成するための手段としてのプログラミングスキルも新たに身につけ、いよいよ明日は最終目標「未来の学校」づくりに本格的にとりかかることになります。
2日目のこの日は、前日にアイディアを出した「未来の学校」をより具体的に構築していく段階に進む、、、予定でしたが、マツケン先生から「予定変更」の報せが。
じつは前日の話し合いで楽しくなりすぎてしまった子どもたち。自由な発想が暴走し、本来の「学校」というものの本質からずいぶんと離れた方向に話が傾いていってしまっていたのです。そこでマツケン先生と井村先生は軌道修正を図ります。本来の目的に立ち返り「学校は何をするところか」「学ぶためには何が必要なのか」を子どもたちに考え直してもらうことにしました。
井村先生の問いかけにより、本来の目的を改めて共有した子どもたち。各チームは前日に引き続きグループでの作業にとりかかりました。最終目標「未来の学校」の建築、そしてプレゼン資料の作成に向けて、長い一日がはじまりました。
マインクラフト制作の作業を進めるのと同時進行で、最後のプレゼン用の資料づくりにもとりかからなければなりません。マツケン先生やメンターの先生のアドバイスをもとに資料のデザインや発表者の言い回しをブラッシュアップしていきます。自分たちがとり組んだ課題をわかりやすくまとめて資料をつくり、皆に理解してもらい、関心をもってもらえるように発表するまでが一つのプロジェクトなのです。
作業予定時間が終了し、ついにプレゼンタイムがやってきました。2日にわたってグループで成し遂げた渾身の共同プロジェクトをアピールします。Aグループから順番に発表していきました。
Aグループ
テーマは「自然と近未来のハイブリッド」。建物にガラスや白い素材を使って見た目の近未来感を出しつつ、初等部のシンボルであるくすのきを象徴的に配置するなど、自然をふんだんにとり入れた校舎をデザインしました。
Bグループ
SDGsの観点から環境への配慮を一番に掲げ、学校にかかわるすべての人が健康的に楽しく過ごすことのできる施設を提案。近隣の人が気軽に入ってこられる開放感のあるつくりになっています。
Cグループ
コンセプトは「自分の趣味をいかし好きなことを突きつめられる学校」。食堂エリアが畑になっていたり、“極秘施設”である気象観測室から気象衛星を打ちあげるしかけをつくったりなどわくわくするような空間に仕あがっています。
Dグループ
テーマは「安心安全のセキュリティ」。鉄の二重扉や隠し通路があるなどリスクへの対策はばっちり。堅牢なシステムが張り巡らされた建物ですが、屋内は繊細な装飾が施されデザイン性の高さもうかがえます。
全グループが発表を終え、今回のワークショップは全行程が終了となりました。「最高傑作ができた」「うまくいかないこともあったけど、たいていのことは努力と根性で乗りこえられると思った」「みんなで相談しながらできて楽しかった」。子どもたちは皆、やり切ったというような満足げな表情を浮かべていました。
このわずか2日間のワークショップで、プログラミングスキルの上達はもちろんのこと、グループメンバーがお互いの個を理解しながら一つにまとまっていく様子、そして、ちょっとハメを外しすぎてしまっても、きっちりと目標を見定めて修正していく頼もしい様子も目の当たりにしました。
本学でのプログラミング教育は、これからの時代のテクノロジーに不可欠なスキルを習得するというだけにとどまらず、課題発見・解決型学習として重要な役割を果たしています。同時に、今回のようなグループでの共同作業は、仲間を尊重し協力していくことの大切さを学ぶという情操的な効果をももたらしました。
本学とCA Tech Kidsとの提携によりスタートした初等部のプログラミング教育。今後ますます注目していく必要があります。
今回の企画は、某企業が本校のプログラミング教育に関心を持たれ、学校に見学にいらっしゃった事が発端でした。そのことがきっかけで、当該企業の研修をCA Tech Kidsの皆様と一緒に考える機会を与えられ、その研修で、大人達が真剣になってMinecraftの中でテーマに沿った世界を作り上げ、プレゼンテーションをしている姿を目の当たりにし、ぜひ初等部の児童たちにも体験させたいと、CA Tech Kidsの皆様にお願いして実現することが出来ました。
実際に普段授業をしていて、子どもたちのプログラミングの技術は年々高くなっている、一方でその作品の良さをプレゼンする力はそれほど高くない、と感じていました。今回は、少人数でかつ多くのメンターが同席することで、自分たちの考えた世界の内容を整理しその良さをキチンとアピールする方法を身につけさせたい、と考えていました。また、今回のようにMinecraftで「学校」という世界を作るためには、「学校はどんな場所であるか?」や「学校に必要なものとは?」など、物事を本質から理解したうえで組み立てていく力が必要であり、それを楽しみながら意図せずに学ぶことが出来ます。これらの力は、本学院が目指すサーバントリーダーという人物像には必要不可欠な力ではないかと私は考えています。
今回、これらの目標は達成できたのではないでしょうか。今後も、このような企画を繰り返し行っていきながら、子どもたちにこれからの時代に生き抜くために必要な力の種まきを積極的に行っていけたらと考えています。
課題を見つけて、仮説を立ててやってみて、振り返って次につなげるという思考の方法、すなわちプログラミング的思考。子どもたちはそれが自然にできていますね。彼らは「仮説」とか「振り返り」ということを意識しているわけではない。けれど自然にそれができているのです。その思考の方法は、どんな分野にも通用すること。プログラミング教育がはじまったこの3年間で成果が確実に出ていると実感します。