【もっと知りたい!ドクター通信】新型コロナウイルス問題下における睡眠問題について
2020/11/26
株式会社ヒュプノスが実施したアンケート調査によると、新型コロナ問題が発生してから睡眠時間が短くなった人が23.2%、睡眠の質が悪化した人が31.2%も存在するのだそうです。新型コロナ問題の発生以来、社会全体が外出を控えるようになり、テレワークとかオンライン講義が普及するなど、さまざまな生活習慣の変化が見られますが、これらの変化と睡眠の間に関係はあるのでしょうか? 本稿では新型コロナ問題下での社会の変化と睡眠問題の関係について解説します。
まず、睡眠のメカニズムについて簡単に説明します。
大まかにいうと、睡眠とは覚醒系神経、睡眠系神経、体内時計の3つのメカニズムによってコントロールされています。覚醒系神経が活発になると目がさえてきて、おとなしくなると眠くなります。逆に、睡眠系神経が活発になると眠くなり、おとなしくなると目が覚めます。このように睡眠という現象は原則的に覚醒系神経と睡眠系神経の2本立てで運営されているわけですが、そうすると今度は「覚醒系神経と睡眠系神経が同時に活発になったり、同時におとなしくなった場合にはどうなるのか」という素朴な疑問がわいてきます。実際にそのような事態になると、少し変というか、ちょっとおかしなことになるので、人間の脳には覚醒系神経と睡眠系神経の活動がかち合うことがないように調整する仕組みが存在します。それが「体内時計」です。体内時計が「そろそろ眠る時間だ」と認識すると、脳内の松果体というところからメラトニンという物質が分泌され、睡眠系神経は活発に、覚醒系神経はおとなしくなって、自然に眠くなってくるわけです。
もともと、人間の体内時計は24.3~24.7時間周期で動いていると言われています。でも、1日は24時間であって、24.3時間でも24.7時間でもありません。したがって、24時間周期の規則正しい生活を送るためには、この1日あたり30分前後のずれを何とかしなければなりません。このような「ずれ」を調整しているのが太陽の光なのです。
普通に生活をしていると、毎朝起床後に太陽光を目にします。太陽光を目にすると、その時点で体内時計がリセットされ、それから14~16時間後に松果体からメラトニンが分泌されて自然に眠くなり、生活リズムも30分ほど前に修正されるようになります。こうして見てみると、人間の体はなかなかうまくできていると思いませんか?
ところで、「体内時計をリセットするために太陽をまじまじと見つめよう!」などといった勘違いをする人が出てくると困るので断っておきますが、体内時計をリセットするためには太陽を直接見つめる必要はありません。・・・というか、目を傷めるので、そのようなことは絶対にしないで下さい。日中に窓から入ってくる自然光や、普通に外を歩いていて自然に目に入ってくる程度の光で十分です。
最近になって体内時計に不調をきたして、不眠となったり、睡眠の質が悪くなったりする人が増えています。その原因は強い光です。先ほど、体内時計がリセットされてから14~16時間後にメラトニンが分泌されると説明しましたが、ちょうどメラトニンが分泌される頃に強い光を目にすると、メラトニンが分泌されなくなってしまうのです。おそらく、「そろそろ寝る時間と思いこんでいたけど、よく見たら朝だった」などと脳が誤認するということでしょう。
それでは、このように体内時計を狂わせるのはどの程度強い光なのでしょうか? 意外に思われるかもしれませんが、実はPCのディスプレイとかスマートフォン(スマホ)が放つ光でも十分大きな影響がもたらされるのです。
以上の知識に基づいて、新型コロナ問題下で睡眠問題が発生した原因について考えてみましょう。
まず、考えなければならないのが、テレワークやオンライン講義の普及によって、ディスプレイやスマホを見ている時間が延び、それらが放つ光の影響で体内時計に狂いがもたらされた可能性です。また、新型コロナ問題の発生後、感染予防目的で外出を控える人が増えましたが、外出を控えるのみならず、ついつい横着をして、雨戸やカーテンを閉めっぱなしにして過ごした結果、起床後に体内時計がリセットされにくくなって、生活時間帯が後ろにずれてしまった可能性も考えねばならないでしょう。
したがって、新型コロナ問題下の睡眠問題への対策としては、第一に就寝直前にはディスプレイやスマホの光を見ないようにして、メラトニンの分泌を妨げないようにすること、第二に起床後に雨戸やカーテンを必ず開けて、窓から自然光が入ってくるようにして、毎日確実に体内時計をリセットすることが重要ではないでしょうか。
Q 昼寝をすると仕事の効率が上がると聞きました。どれくらいの時間眠ると良いのでしょうか?
A 昼食後に眠くなってくるというのは比較的ありふれた現象ですが、このような場合は昼寝をして問題はありません。「昼寝なんてすると体内時計が狂う」などと昼寝を嫌う人がいますが、午後3時頃までの30分以内の昼寝であれば、夜間の睡眠に悪い影響を及ぼさない上に、昼寝の後の時間をすっきりと生産的に過ごせるようになることがわかっています。会社員の場合、大まかなところでは、午後0時に昼休みに入るなり近くの定食屋に駆け込んで昼食を食べ、午後0時35分頃に会社に戻ってきて、昼休みが終わる午後1時までうたた寝をする・・・・という感じになるのでしょうか? ただし、昼寝の時間が30分以上になると弊害が出てきます。30分以上昼寝すると体と脳がスリープモードに入ってしまって、覚醒後にぼんやりしてしまうからです。また、似ているようでも夕食後の居眠りがうまくないこともわかっています。夕食後の居眠りから覚めた後は、目がさえてしまって、いつもの就寝時間に眠れなくなってしまうのです。