説明しよう!
放課後819(ハチイチキュー)倶楽部とは——
俳句を1から楽しく学ぶことをコンセプトに立ち上がったwebサイト上の倶楽部である。
紹介しよう!
倶楽部員は2人。
顧問は青山学院中等部の国語科教諭、林謙二先生。
第3回の倶楽部活動の様子をここに報告しよう。
(なお、倶楽部活動はリアルと仮想の両方で行われる。)
発表! 沖縄がテーマの俳句
林先生
放課後819倶楽部第3回の倶楽部活動を始めます。修学旅行で訪れた沖縄で俳句を一句詠むという宿題が出されていたよね。既にそれぞれのクラスで句会をやったと思うけど、今日はその時に詠んだ俳句を持ってきた?
さとは
はい
はんな
はい
林先生
よし、じゃあせっかくだから、白紙に大きく書いてそれぞれ発表してみよう。書きながら聞いて、短歌を詠む歌会は雅やかだけど、俳句を詠む句会は庶民のものなので、雅やかというよりは風流なイメージが……
さとは
先生、このペン、インクが出ない!
はんな
どうしよう。先生、インクが机にうつっちゃった
林先生
……せめて風流にいこう。雅やかではなくても……
はんな
書けました!
林先生
よし。それじゃあ、はんなさんから詠んでみて
はんな
素手素足押され引かるる波の下
林先生
さとはさん、今の句を聞いて、どんなイメージや印象を持った? ちなみに、俳句をどう味わうか、どういう場面を詠んだのだろうかというのを読み取ることを「鑑賞」と言うんだ。改めて問おう。この句をどう鑑賞した?
さとは
小さい波がわーって来て、さーって行くような感じかな
林先生
大きい波じゃなくて、小さいさざ波がすーっとね
さとは
それで、友達とみんなで遊んで楽しんでるイメージです
林先生
なるほど。それでは、はんなさん。今の感想を聞いてどう思う?
はんな
理解してもらえるとすごくうれしいなと思いました!
林先生
はんなさん自身としては、どういう場面を詠んだ? 俳句は詠んだ本人が、「自分はこういうつもりでこの句を詠みました」と言う機会がない文学だ。でも今は勉強のため、聞かせて欲しい
はんな
ビーチに行ったときに水に足をちゃぽっとつけたら、波の感触がして、それがとても涼しくて楽しいなって思ったので、その気持ちを詠みました
林先生
なるほど。いいね。では続いて、さとはさんの句、詠んでみて
さとは
扇風機友から借りて一休み
林先生
はんなさん、さとはさんの句をどう鑑賞する?
はんな
暑いんだな~と思いました。それで、友達と日陰で涼んでいる光景が浮かびました
林先生
うんうん。それで、さとはさん自身はどういう気持ちで作った?
さとは
バスの中で本当に暑くって。でも、わたしが扇風機を持って来るのを忘れちゃったので、友達の扇風機のところにわーって吸い込まれるようにいって。その時のことを詠みました
林先生
そっか、そっか。ところで、俳句は発表した瞬間に、もう自分のものではなくなり、鑑賞する皆さんのものになる。作った本人ではなく、皆さんがどう解釈するか、どう味わうかが大事になるんだ。今回2人に鑑賞してもらったけど、はんなさんの句のように自分の思った通りの鑑賞をしてもらえるものもあれば、さとはさんの句のように、実際に詠んだ場面と解釈がズレてしまうものもある。それがどうしてなのか、どうすればより想ったところを伝えられるのかを見ていこう
まずは「季語」の確認
林先生
さとはさん、
はんなさんの句「素手素足押され引かるる波の下」、この句の季語は何だか分かる?
さとは
えっと……「波」?
林先生
なっ、「波」!? 季節は?
さとは
夏
林先生
本当?(笑)
さとは
あっ、もしかして「素足」?
林先生
そうそう、「素足」が正解。「素足」とか「裸足」とかは夏の季語になるんだ。この句は「素足」が入っているので夏の句になるね。ちなみにはんなさん、さとはさんの句「扇風機友から借りて一休み」の季語は何?
はんな
「扇風機」かな
林先生
その通り。「扇風機」だね
手直ししてみよう
林先生
実際にどこをどう直せばよりよくなるか見ていこう。まずは、はんなさんの句から。この句は授業中に行った句会では点数がたくさん入ったんだったよね
はんな
11点、かな
さとは
はんなちゃん、すごい!!
林先生
32人、ひとり1点で投票して、11点ということは、クラスの約3分の1の人が票を入れたということになる。それはつまり、それだけ共感されている句ということだ。確かにはんなさんの言っていたように、足を入れて波を感じたこと、「押され引かるる波」だから、波が押し寄せて、またすーっと引いていく光景を詠んだんだな、ということはよく分かる。この句はそのままでも素晴らしいけれど、形を少し変えて、さらに推敲(すいこう)してみよう
はんな
はい
林先生
「素手素足」の「素足」はいいよね。「素足」を取ってしまうと季語がなくなってしまうので、「素足」は残そう。でも「素手」はどうかな? 手も波の中に入れた?
はんな
はい。貝殻を取ろうとして
林先生
そーかぁ。それで波を感じたわけだね。でも素手と素足が両方あると、ちょっと印象がぼやけてしまう。だからここではどちらかに絞ってみよう
はんな
やはり「素足」を残したいです
林先生
やっぱり「素足」だよね。じゃあ、「素足」だけ残そう。「素足」で波を感じたんだよね。「押され引かるる」の部分だけど、ある意味、波が押して引くのは当たり前のことなので、「波」という一言だけで「押され引かるる」も表せるはずだ。だから、「押され引かるる」という表現はなくてもいい。次に「波の下」だけど、「波の下」は特殊な言い方というか、なかなか出てこない表現ですごく際立った言い方だと思う
さとは
ちなみに「波の中」だと変なんですか?
林先生
「波の中」でもいいと思う。もしくは「押され引かるる」を残して「海の中」としてもいいかもしれない
はんな
うーん。「波の下」を残すとしたら、どうなりますか?
林先生
「波の下」を残すなら、七音のところはもっと別の表現が入れられるね
はんな
先生、もしもこの「波の下」を「砂の上」に変えたらどうなりますか? それだと砂浜をイメージしちゃいますか?
林先生
「砂の上」か。そうだね、「押され引かるる」で波は感じるんだけど、「砂の上」にするとちょっと無理があるなあ
はんな
なるほど。難しいな
林先生
そう、難しいんだ。ところで、はんなさん、自分が作った句をああでもないこうでもないって言われるのは、たぶん最初はあんまりおもしろくないと思うんだけど、そう感じる? そうでもない? 素直に受け入れられる?
はんな
はい、大丈夫です
林先生
素晴らしい。それはすごく大事なことで、周りの人がああした方がいいこうした方がいいと考えてくれた意見は、素直に受け入れた方がいい。でも、そうすると自分が感じたことと全然違う雰囲気になっちゃうこともある
はんな
そうですね
林先生
それはある意味仕方がないことだ。
それでも自分の詠んだ句や言葉を大切にしたいときは、先生達はああいう風に言うけど、私はこの句はこの句のままでいいなという気持ちで聞いていればいい
はんな
(笑)
林先生
じゃあ、推敲の続きだ。素足を入れてどんな感覚がしたのかというのを詠んでみることもできる。足を入れて「あ!」と思ったことは何だろう?
はんな
「冷たい」が一番にきました
林先生
冷たいかぁ。「冷たし」は冬の季語だからな
さとは
体感にも季語があるんですか?
林先生
そう、あるんだ。「冷たし」は冬の季語。「涼しさ」だと夏の季語だけど、「新涼」や、「涼新た(りょうあらた)」になると秋の季語になる
はんな
ひやっとして、冷たいというのが感覚的に一番近いのですが……
林先生
そうか。そういう感覚は大切にしよう。これはちょっと裏技だけど、「冷たさ」を季語として感じさせないように、夏の季語「素足」をクローズアップさせるように考えてみよう
はんな
クローズアップ
林先生
そう。より主役になるように。今回は「素足」を際立たせるように考えるんだ。波を感じたという「波」。特に素足で波を感じた冷たさ、それをより深く、その感触を表現する何かある?
はんな
波の感触かぁ……
林先生
例えば……「つかむ」とかはどうかな? 通常はつかむといえば手、手でつかむだけど、素足でつかむとして、「波の下冷たさつかむ素足かな」なんてどうかな? こうすると海の浅瀬に力強く立っている感じがするし、何よりはんなさんの感じた波の冷たさも感じられる
さとは
本当だ。海の底の感触までするみたい。言葉一つで、不思議
はんな
添削をありがとうございました
林先生
次にさとはさんの句を見ていこう。はんなさんは「扇風機友から借りて一休み」この「扇風機」ってどんな扇風機を思い浮かべた?
はんな
「友から借りて」なので、ハンディなタイプのものかなと思いました
林先生
それはちゃんと読めたんだね。……実は、これ下手をすると引っ越しの話になっちゃうんだ
さとは
えっ!!
林先生
引っ越しの作業中に、「暑いな、隣の家から扇風機を借りて来ようか」っていう句にも読めちゃうんだ
隣の家の扇風機(※イメージ)
さとは
ハンディファンだと、どうなりますか
林先生
「扇風機」は「ハンディファン」のことなんだね。でもハンディファンはね、確かに「扇風機」だし、中等部のみんなの生活の中では一般的なものなんだけど、あんまり俳句の世界では一般的にはならないんだよなあ……
さとは
(笑)
はんな
(笑)
林先生
そんなときに、俳句の世界では「何を借りたのか」というのを読み取らせる方法があるんだ。どうすればいいかというと、例えばこんな感じ。「涼しさを友から借りて一休み」
さとは
あー
林先生
そうすると「涼しさっていったい何なんだろう」って考えるよね。人によっては扇子かもしれないし、人によってはハンディファンかもしれない。氷、ジュース、いろいろものが想像できるしいろいろな解釈が可能になる。だから世界に拡がりが出てくるんだ。「涼しさ」は夏の季語だから、これで夏の句が一つ出来上がる
さとは
ありがとうございます
借りてきたネコ(※イメージ)
はんな
先生も沖縄の句、詠まれていましたよね
さとは
ぜひ、紹介してください
先生による例句
林先生
例句として出したのは、この二句。
三線の音やはらかに夏の旅
月桃の花の揺れたるガマの上
一つ目の句にある「三線」は何か分かる?
はんな
沖縄の楽器、三味線のことですよね
林先生
その三線の音が柔らかに耳に心地よく聞こえたなというのを詠んだ句だ。二つ目の句にある「月桃」というのも沖縄の植物だ。沖縄戦の悲惨さや大変さを描いた『月桃の花』という題名の映画を沖縄に行く前の事前学習の中で鑑賞してもらったね。実際に沖縄で月桃の花が咲いているのは見た?
さとは
はい、見ました。白い可愛らしい花でした
林先生
そうそう、丸い花ね。あれが実際に(沖縄で)生き生きと咲いていたというのと、一方で、ガマ(防空壕)の上では月桃の花が咲いていて、そのガマの中では多くの人が亡くなったことが対照的だというのを詠んだんだ……
さとは
どうされたんですか? 先生、赤くなって
林先生
こういうのを「自句自解」と言って、自分の句はこうやって作りましたよと解説するのは本来恥ずかしいことなんだ
はんな
そうなんですか?
林先生
句を作ったらそれきりその句は手放す、そういうものなんだ
さとは
でも作った人の解説を聞きたいけどな
林先生
自分の考えていたこと以上に、句を読んだ人の解釈が深かったり素晴らしかったりすると、逆に恥ずかしくなってしまう(苦笑)。なので、自句自解というのはしない方がいいんだ。このあたりで私の句の話はおしまい。それでは次回は実作の2回目ということで、中七だけで俳句を作るというのをやってみよう
今回のまとめ
- 「鑑賞」とは、俳句をどう味わうか、どういう場面を詠んだのかというのを読み取ること
- 「推敲」とは、俳句をより良くするために、言葉を吟味して洗練させること
- 基本的に俳句を詠んだら、自分で解説はしない(自句自解はしない)
- 一番詠みたい言葉をあえて隠し、読み手に解釈を委ねる方法もある
【次回へ続く】