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放課後819倶楽部【第4回】特訓!

説明しよう!

放課後819(ハチイチキュー)倶楽部とは——
俳句を1から楽しく学ぶことをコンセプトに立ち上がったwebサイト上の倶楽部である。

紹介しよう!

倶楽部員は2人。

顧問は青山学院中等部の国語科教諭、林謙二先生。
第4回の倶楽部活動の様子をここに報告しよう。
(なお、倶楽部活動はリアルと仮想の両方で行われる。)

もっと俳句を詠んでみよう!

林先生 放課後819倶楽部 第4回の倶楽部活動を始めます。前回は、沖縄で詠んだ俳句を鑑賞、そして推敲してもらった。引き続き、今日も俳句を詠んでみよう! まず、これを見て
819倶楽部

さとは 春風や

はんな ボールペン?

林先生 そう。上五が「春風や」で下五が「ボールペン」だ。
今、中七がない形だ。ここに中七を入れて、句を作ってみよう

819

 

さとは えぇっと

はんな うーん

林先生 そんなに考え込まないでいい。例えばボールペンの様子とか。思いついたものをどんどん言ってみよう

はんな 春風や母への便りボールペン

林先生 お母さんに手紙を書いている、そのボールペンということだね。なるほど、いいね

さとは 春風やともにかけてくボールペン

林先生 友達と同じボールペンが共に(一緒に)減っていく感じか。友と共、そして書けると駆けるをかける。なるほど、いいね

さとは 春風や中学デビューボールペン

林先生 中学に入学して初めてボールペンを使う。小学校ではあんまりボールペンを使うことないからな。いいね

さとは はい

林先生 今、いろいろ作ってもらったけど、「春風」が季語だから、中七を入れただけで俳句ができてしまうんだ。ポイントは、上五の「春風」と下五の「ボールペン」が何のつながりもないこと。上五と下五が何か関係のある言葉だと、中七はこれじゃなきゃダメだというふうに指定されてしまう。だから、何のつながりもない上五と下五をまず考える。そしてどちらかが季語になっていると、俳句はぐんと作りやすくなる

俳句のレシピ
  • 上五と下五をまず考える(何のつながりもないものにする)
  • 上五と下五のどちらかに季語を入れる
  • 中七を考える

 

林先生 何か俳句を作らなきゃいけないというときに、何の脈略もない言葉をまず決める。そして中七に何を入れたらいいか考えて作る。ひとつの方法として覚えておくと便利だ。ちなみに、「春風」と「ボールペン」で、私はこんな句を作ってみた。
春風や彼にもらったボールペン

 

林先生 どういう鑑賞ができる?

はんな 彼にもらった大切なボールペンを見ていたらなんか懐かしいなと感じるイメージが浮かびました

林先生 懐かしいか、そう感じるのかぁ。ちなみに懐かしいということは、彼とは今どういう関係になってるの

はんな 離れ離れ

林先生 離れ離れかぁ、そうかぁ。そうなのかぁ

はんな うーん。別れてたら、たぶん懐かしくは感じないと思うので、今も付き合っている感じでしょうか

林先生 そう……だよね? それで、さとはさんはどう鑑賞した?

さとは はんなちゃんと同じ感じかな。でも逆に「こんなボールペン、もう捨てちゃうか」みたいな

林先生 えぇっ!

はんな 要らない思い出は風と共に、ね

さとは そうそう

林先生 ええーっそうなの……せっ世代の違いかなぁ……

さとは どうしたんですか? 先生、しょんぼりして

林先生 この句から甘酸っぱいイメージは浮かばないかな

はんな えっ!

さとは えっ!?

林先生 ボールペンを彼にもらった。その彼というのは、付き合っている彼氏かもしれないし、憧れを持っている男の子かもしれない。そういう対象の男性からボールペンをもらった

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林先生 さっき卒業という言葉が出たけど、春だと卒業式もあるし、入学式もあるよね。つまり春というのは何かが終わって新しい何かが始まる季節。そう考えると、実は彼と付き合い始めたばかりの頃かもしれない。
だって春風だよ。春♪ もうルンルンだよね。ルンルン♪

はんな ルンルン?

さとは 先生!

林先生 ゴホン(咳払いで威厳を整えつつ)、楽しいとかうれしいとかいう言葉がなくても、「春風」という季語があることで、春だから幸せそうなんだなと読むことができる。でも確かに、卒業で寂しいという風に読むこともできるね。とはいえ、もし寂しさを感じている、読む人にも感じさせたいんだったら、季語を変えたい。たとえばこんな風に

秋風や彼にもらったボールペン

 

林先生 こっちの方がもっと寂しい感じがしない?
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はんな あーなるほど!

林先生 「秋風や」とすると、彼とはもう今きっと別れているよね

はんな はい

さとは はい

林先生 これが実は季語の持つ力。「春風」というイメージから、幸せとかうれしいとかそういう言葉が入っていなくても、春風という言葉だけで表現することができる。一方で「秋風」というと、彼氏と別れたとか入っていなくても寂しさを感じる。季語というのはそういう意味ですごく重要なんだ。ただ季節を表すだけじゃなくて、そこにその季語を使うからこその句を目指して欲しい

さとは そこにその季語を使うからこその句、かぁ

林先生 そう。五七五という短い表現で全部は説明できないけれども、説明できない分は季語で説明する。そういう役割が季語にはあるんだ。専門的な用語で、よく「季語が動く」という言い方をする。「季語が動く」というのはどういうことかというと、その季語じゃなくても十分俳句になってしまうという意味だ

さとは 逆に「季語が動かない」、というのもあるんですか?

林先生 もちろん、ある。「季語が動かない」というのは、この季語じゃないとこの句は活きない、言いたいことは言えないという俳句のことを指し、完成された句だと考えられる。自分が詠んだ句を、季語が動くかどうか、つまり他の季語でも成り立つかどうかという視点でもう一度確認するといい。場合によっては別の季語を入れた方がもっと俳句全体が活きるということもあるから、ぜひ自分で俳句を詠んだときは、確認してもう一工夫するようにしよう

今回のまとめ
  • 上五と下五をまず考えて、俳句を作る方法がある。
    (上五と下五は脈絡のない言葉で、どちらかが季語だとさらに作りやすい)
  • 「季語が動く」とは、他の季語でも成り立つ句。季語が活かされていない未完成の句
  • 「季語が動かない」とは、代替の季語では表せない句。季語で言いたいことを表現できた完成された句
  • 詠んだ後、「季語が動く」かどうか確認して、推敲する

 

【次回へ続く】

 

参考文献
辻桃子著『俳句の作り方』(成美堂出版 1988)