Variety いろいろ

青山学院の四季彩-グリーンパーティーへようこそ-冬の星-後編

2019年11月某日、ベリーホール――。
見上げる程高いヒマラヤ杉の木の下にグリーンパーティーの面々が揃っていた。

ベリーホールの側にあるヒマラヤ杉

わたしは青山学院のクリスマス・ツリーはモミの木だと思っていたのですが、違っていました。(※青山キャンパスのクリスマス・ツリーはヒマラヤ杉です)ちなみにモミの木のイメージって何かありますか?

ゆうなちゃん クリスマス・ツリー以外思いつかないよー!

モミの木といえば、やっぱりクリスマス・ツリーのイメージがありますよね。ではモミの木を探してみましょう

ベリーホールの周りには建物をいたわるように様々な木が植わっている。
ツバキにシュロ、イチョウ、モミジにヒマラヤ杉――

緑あふれるベリーホール

さあ~て、モミの木はこのあたりですが、どれでしょう?

ほのかちゃん どこだろう?

ゆうなちゃん あれかな?

みゆちゃん あっちのじゃないよね?

緑に抱かれるようにして建つベリーホール

みんながあちこち探し始めた。
木を隠すには森の中とはよく言ったもので、ここまで緑みどりしていたら、きっとすぐには見つけられまい!
愉悦に浸り、思わず知らず頬(ほほ)が緩んだ瞬間、りおちゃんが冷静に1本の木に指を向けた。

りおちゃん (迷いなく)これ!

はっやっ(もっと時間がかかると思っていたのに……)。正解です!! モミの木は建材にも使われ、ヨーロッパでは悪魔よけにも使われるそうです。香りも良くて、ホルムアルデヒドを除去する働きにも優れているそうです

ともみちゃん ホルムアルデヒドって何ですか?

健康被害を引き起こす化学物質で、建材に使われ、一時期問題になりました。それを除去する働きに優れているそうです

ゆうきちゃん すごい!

モミの木は実はとってもデリケートで大気汚染や煙、暑さに弱く最近減ってきているそうです。きれいなところにしか生えないということで、“ここに生えている=学内がきれい”という証拠ですね。清らかなイメージの強いモミの木、さすが聖書に出てくるだけのことは……

大島先生 こないのである

全員

学院宗教部長の大島先生! わたしはてっきり聖書に出てくるものと思っていました。モミの木とヒマラヤ杉はキリスト教と関係ないのでしょうか(ちょっと寂しい)

大島先生 そうとも言い切れないのである

ともみちゃん 大島先生、ぜひ、モミの木とヒマラヤ杉とキリスト教の関係を教えてください

もみの木とヒマラヤ杉

もみの木は、残念ながら聖書には出てきません。クリスマスの時期にもみの木をクリスマス・ツリーとして飾りつける習慣は、キリスト教がパレスチナ地方から地中海地方を経てドイツに伝わった頃から始まった習慣です。もみの木は寒さのなかでも力強く常緑が変わらないところから、クリスマス・ツリーに相応しいと考えられたのでしょう。有名な「ああ、もみの木」という歌はしばしば「きよしこの夜」と共に歌われます。(小塩節著『木々を渡る風』を参照)。

ヒマラヤ杉とレバノン杉と希望

 ヒマラヤ杉も聖書には登場しませんが、その同族であるレバノン杉は旧約聖書によく出てきます。そして、様々なことを象徴する木として、聖書の人間や社会の在り方を示す表現を豊かにしています。例えば、レバノン杉は高く、形姿よく成長することから、女性が男性に対して恋ごごろから「わたしの恋しい人は……姿はレバンノンの山、レバノン杉のような若者」と語っています(雅歌5章10・15節)。また、レバノン杉は繁栄の象徴であり、「主の植えられたレバノン杉は豊かに育ち、そこに鳥が巣をかける」とも言われています。(詩編104編16・17節)他方、レバノン杉は大変に高価であったので、繁栄の中で人間が傲慢になっている時には、神がそれを断ち切るという、裁きの文脈でも比喩として使われています(アモス書2章3節)。
 しかし、その神の裁きは最終的なものではなく、切り取られた後の希望も示唆されています「わたしは高いレバノン杉の梢を切り取って植え、その柔らかい若枝を折って、高くそびえる山の上に移し植える」と神は語られています(エゼキエル書17章22節)。クリスマスの時期に、ヒマラヤ杉を見上げながら、断絶と絶望の中で語られた次のようなメシア誕生の預言に思いを巡らすことは意味あることでしょう。「エッサイの株からひとつの芽が萌えいで その根からひとつの若枝が育ち」(イザヤ書11章1節)。その若枝とはイエス・キリストのことです。

学院宗教部長 大島力

モミの木とヒマラヤ杉は寒空の下でも凛としていて、確かに希望を感じます。冷たい風にも揺るがないヒマラヤ杉とモミの木は文学的にはどう扱われているのでしょうか

ゆうこちゃん 笹川先生、教えてください

笹川先生 モミの木とヒマラヤ杉について、ですね

モミの木とスギの木――クリスマス・王宮・楽園を彩る常緑樹

モミの木はクリスマス・ツリーの木として知られていますね。この木がイギリスに伝わったのは19世紀、ヴィクトリア女王の時代とされています。

初等部のクリスマス・ツリー

「子供たちは好奇心いっぱいの顔で、きらきらと光る飾りのついた、クリスマスのモミの木がすえられた高い台座のまわりに集まる」と歌ったのは、女王の時代の詩人、ユージン・リー=ハミルトンです。クリスマス・ツリーはキリスト教が始まる以前に由来し、クリスマスの頃、つまり日が最も短い冬至の祭りで用いられたとされています。人々は冬でも緑をたたえる木にその生命力を認めていたのです。

ソロモン王とレバノンスギ――生命力あふれる緑、力の象徴

1837年に始まるヴィクトリア朝の王室によって、クリスマス・ツリーの習慣はイギリスで広まりましたが、学内で見られるヒマラヤスギもまたこの頃にイギリスにもたらされました。(「スギ」と名前がついていますがマツ科で、日本でスギ花粉症をひきおこす種ではありません。)聖書でも繰り返し言及されるスギは力の象徴とされています。ヴィクトリア女王のもとで桂冠詩人*として活躍したアルフレッド・テニスンは、「女王」という作品の中で、旧約聖書の『列王紀上』に基づいて、ソロモン王がシバの女王をレバノンスギで建てられた王宮で歓待したことに言及しています。このレバノンスギはヒマラヤスギより早く17世紀半ばにイギリスにもたらされました。

 

エデンの園を護る木々とは?

モミの木もスギの木も常緑であることから、不朽の力を示すものとして使われてきたことがわかります。イギリスを代表する17世紀の詩人ジョン・ミルトンは、人類の祖であるアダムとイヴの創造と、二人が楽園から追放されることを述べた旧約聖書の『創世記』をもとにして、『失楽園』という1万行をこえる叙事詩を書きました。その中で楽園であるエデンの園を守るように取り囲んでいた木々は、「スギ、マツ、モミ、枝をのばすヤシ」であるとしています。ミルトンは常緑であるこれらの木々が楽園にふさわしいと考えたのかもしれません。そして同時に、初期近代に初めて外国からイギリスにもたらされた植物へのミルトンの強い関心も読み取れます。モミの木もスギの木もある青山学院の庭は、ミルトンが見たら楽園に見えるかもしれませんね。

青山キャンパスのクリスマス・ツリー

参考文献
O・クルマン『クリスマスの起源』土岐健治、湯川郁子訳、教文館、2006年。
ジョン・ミルトン『失楽園』 平井正穂訳 上巻、岩波書店、1981年。
若林ひとみ『クリスマスの文化史』白水社、2004年。

青山学院の構内はまさにミルトンに見ていただきたい景色です!! 林先生、恒例となりましたが、モミの木で締めの一句をお願いします

林先生 冬ざれやもみの木の葉は針のごと  林謙二

モミの木の香りがしてきそうな句をありがとうございます。ちなみに季語は……モミの木でしょうか?

林先生 クリスマス・ツリーとして知られている「モミの木」ですが、常緑樹でもあり季語になってはいません。「冬ざれ」が季語。何もない、冬のさびれた様子を表しています。「~のごと」は「~のごとし、~のようだ」という表現です

なるほど! ありがとうございます。それではそろそろお腹も空いてきましたので、次の植物に行ってみましょう!

(次回に続く)

 

今回のルートのご紹介 ※アオガクプラス辞典より

ピンク色の点線がグリーンパーティーのたどった道