Variety いろいろ

青山学院の四季彩-グリーンパーティーへようこそ-赤い実に気をつけろ

青山の赤備え!? 難攻不落の赤い実

食物、いや植物へのあくなき好奇心から始まったこの企画
青山学院の四季彩。

寒さが一層身に堪え、植物も縮こまって見えるこの季節――
学内に特徴的な植物が実を結ぶという。
小さい“実”をたわわにつける木。そしてその実はなぜか激しいまでの赤だという。
そんな目立つ植物が広報部員・聖の眼を引かないわけがない。
果たしてそれは、すぐに聖の眼に触れることとなった。

12月に入ってすぐ、チャールズ・オスカー・ミラー記念礼拝堂の裏手に、
人目を遠ざけるように、ひっそりと南天が実をつけ始めた。
枝も細くいかにも控えめな姿だが、何しろ実が赤い。
実がなっている=食べる=グリーンハントという単純かつ明快な図式が思い浮かぶ
食の権化・聖である。迷うことなく青山学院中等部緑信会の顧問・林謙二先生にコンタクトを取った。

蔦のからまるチャペル:チャールズ・オスカー・ミラー記念礼拝堂

チャールズ・オスカー・ミラー記念礼拝堂――
「この中には有名な金色の十字架があるらしい……」
そんな話を耳にしたのはつい最近のことだ。今日、グリーンパーティーの集合場所に選んでみたのだが、冬の穏やかな太陽の下、ゆるやかな空気に包まれているように見える。
格子ガラスを見やった。夜、ごくたまに、滅多に開くことのない礼拝堂から、黄金色の光が漏れているのを目にすることがある。有名な十字架の話を聞いた後はことさら物語を感じずにはいられない。
しかし、今は昼下がり。
平穏そのものだ。
賑やかな声に振り返ると、グリーンパーティーの面々がやってきた。
(今回の参加メンバーはともみちゃん、ゆうきちゃん、あやかちゃん、りおちゃん、ゆうこちゃん、みゆちゃん、ほのかちゃん、ゆうなちゃんです!)

それでは、本日のグリーンハントを行いたいと思います

ともみちゃん 今日は何を見に行くんですか?

南天です! みなさんは南天って知っていますか?

ゆうきちゃん 赤い実のなる木ですか?

おぉっ! さすがに知っていますね。それでは今日は南天を探してみましょう

言うが早いか、みんなが一斉に探し始めた。
大学3号館、4号館に囲まれた緑地帯の周りを歩き始めるメンバーがいたり、17号館の方へ歩いていくメンバーもいたりする。
南天は地味だけどしっかりと目立つ木だ。
そんな木を前に、質問しても答えが見えているようなもの。
しかし侮るなかれ!
聖は内心“したり顔”でほほ笑んだ。
この時期、赤い実をつける木が他にもあり、南天を上手いことカモフラージュしてくれている。(もちろん、植物にはそんなつもりはないだろうが)
今度こそ、本当に今度こそ、簡単には見つけられまい。
その時、ほのかちゃんが悩ましそうに首を傾げた。

ほのかちゃん あれではないですよね?

あぁ惜しいですね! 違います

りおちゃん あの赤い実をつける木↑は何という名前なのですか?

あれはクロガネモチという植物です。「クロガネモチ」=「苦労なく金持ちになる」を連想させるところから縁起の良い植物とされています。小鳥たちが美味しそうに食べているので、ついつい一緒になってついばみたくなりますが、味は今ひとつなので要注意です

みゆちゃん そうなんですね。そういえば、西門の近くにもこんな赤い実↓をつける植物がありますよね? もしかしてあれが南天ですか?

おおっ、惜しいっ! 非常に惜しいっ!! あれは千両(センリョウ)です。名前からおめでたさが溢れかえっている植物で、お正月飾りによく使われます。子供の頃、お正月に玄関に飾ってあったのを食べてみましたが、さして美味しくはなかったです

ゆうこちゃん 万両(マンリョウ)という植物もありますよね? 

さすが! よく知っていますね! 万両(マンリョウ)も同じように赤い実をつける植物ですが、残念ながら学内にはないようです。ちなみに万両(マンリョウ)は葉っぱの下にサクランボのように赤い実をつけますが、千両は葉の上に赤い実がなります

あやかちゃん あれっ! もしかして、南天ってあれですか?

やっぱり早いっ! 正解です!

ゆうなちゃん 南天って食べられるのですか?

わたしも当初そう思ったのですが、なにしろ見た目ほど美味しくなくて……いえっ、毒があるそうですので、くれぐれも鳥を蹴散らしてまで食べないように気をつけましょう。ちなみに南天は大変縁起の良い木で、お正月飾りとしてよく使われます。また南天の箸を使うと病などを避けると言われていますが、実は加工するのが難しくて、南天の箸を作るのは難点だそうです。南天だけに

全員 ざわざわ

なーんてね。あっ、今の分かりました? 南天と難点をかけてまして……なーんて(ん)ね

全員 ざわざわ

そう言えば、南天って英語で何て言うんでしょうか? 笹川先生っ!

笹川先生 えっ! ああ……Nandina、またはそのままnantenと呼ばれています。南天の赤い実、懐かしいな。雪だるまの目に使ってみたことはありますか? 真っ白な雪に南天の赤が映えてとてもきれいなんですよ

おおっ、さすが雅な! 残念ながらわたしは雪だるまを食べたことならありますが、雪だるまに南天を使ったことはないですね

ともみちゃん 南天の赤って、冬の寒い空気の中にあるせいか、すごくきれいですね

笹川先生 そうですね、日本では画家伊藤若冲が鶏とともに描き、正岡子規は俳句に詠んでいるんですよ

ゆうきちゃん 笹川先生、南天と文学の関わりを教えてください

 

南天――小泉八雲の庭

プラントハンター、世界収集の旅

記録によると、南天がイギリスにもたらされたのは1804年のことです。ウィリアム・カーというプラント・ハンターによって中国からロンドンにある現在のキュー王立植物園にやってきました。この植物園は世界遺産になっているので名前を聞いたことがあるかもしれません。当時のヨーロッパでは植物採集のための専門家がいて、世界各地から本国にない植物を収集していったのです。このような膨大な収集の歴史を、大英博物館やキュー王立植物園のコレクションとして私たちが目にすることができるのですね。この植物園には日本の民家もあり、そのそばには南天が植えられています。英語では日本語を借りてNandina、またはそのままnantenと呼ばれています。あるいは、「天の」という意味の形容詞であるcelestialやheavenlyを用いて、celestial bambooやheavenly bambooという呼び方もよく知られています。bamboo(竹)とされる理由は、葉が茂ると竹の葉に似ているからだとか。

南天と小泉八雲の魔除け

アイルランドで生まれ日本に帰化したラフカディオ・ハーン。みなさんが子供の頃に読み聞かせてもらった『怪談』(Kwaidan)の作者で、日本名を小泉八雲といいます。八雲は日本での生活を綴った「日本の庭にて」という作品で、島根県松江自宅の庭にあった南天を「優美な木」と述べていますが、その植物が持つ伝説を次のように紹介しています。

「この木にも、大変面白い伝説がある。もし不吉の前兆となるような悪い夢を見たなら、早朝にその夢を南天に囁(ささや)くとよい。そうすれば、その悪夢が正夢になることはないというのだ。」

南天に「難を転じる」という意味を読み取る言い伝えですね。松江を去って数年後、八雲は東京帝国大学文科大学(いまの東京大学)の講師として英文学を教えます。(ちなみに八雲の後にその科目を引き継いだのは夏目漱石です。)学生を前に文学と作家が持つ力を熱く語る八雲には、南天が実を結ぶ日本庭園を見て得られた想像力や思想が大きな影響を与えていたことでしょう。

小泉八雲邸

参考文献
ラフカディオ・ハーン『小泉八雲東大講義録 日本文学の未来のために』 池田雅之訳 角川書店、2009年。
―――「日本の庭にて」 『新編 日本の面影』 池田雅之訳 角川書店、2000年。
“Nandina, n..”Oxford English Dictionary, Oxford University Press, 2019,
https://www.oed.com/view/Entry/240237?redirectedFrom=nandina#eid. Accessed 5 January 2020.
Steven Foster and Yue Chongxi. Herbal Emissaries: Bringing Chinese Herbs to the West. Healing Arts Press, 1992.

大学文学部英米文学科准教授 笹川渉
あやかちゃん ありがとうございます。とても勉強になりました

それでは、林先生、恒例の南天で締めの一句をお願いします!!

林先生 南天の実の赤々と雨上がり  林謙二

季語は南天ですね

林先生 それが「南天」だけでは季語になりません。季語は「南天の実」で季節は秋。「南天」は秋から冬にかけて実をつけるためです

りおちゃん 季語って難しいですね。何が季語かってどうやって分かるのですか?

林先生 季語か季語でないかは『歳時記』で調べます。『歳時記』とは、春夏秋冬・新年の季語とその説明、さらに例句が載っています。文庫本サイズからハードカバーの5冊セットのもの、写真が掲載されているものまで、あらゆる種類があります

ゆうこちゃん 季語って、だれが決めるのですか?

林先生 万人に認められるような句ができれば、それが季語になります。季語にもいろいろありますが、「ラグビー」は冬の季語。でも「サッカー」や「野球」は季語ではありません

みゆちゃん それじゃあ「箱根駅伝」はどうですか?

林先生 残念ながら「駅伝」「箱根駅伝」も季語ではありません。ただ将来、「箱根駅伝」で素晴らしい句ができれば、季語になるかもしれませんね

なるほど! それでは2020年「箱根駅伝」の季語化を目指して、頑張りたいと思いますっ! などと言っていたら、すっかりお腹も空いてきましたので、そろそろ次の植物に行ってみましょう!!

(次回に続く)

 

南天の木のご紹介 ※アオガクプラス辞典より

赤いマークがグリーンパーティーの見た南天の木の位置