青山学院の四季彩-グリーンパーティーへようこそ-赤い実に気をつけろ
2020/01/28
食物、いや植物へのあくなき好奇心から始まったこの企画
青山学院の四季彩。
寒さが一層身に堪え、植物も縮こまって見えるこの季節――
学内に特徴的な植物が実を結ぶという。
小さい“実”をたわわにつける木。そしてその実はなぜか激しいまでの赤だという。
そんな目立つ植物が広報部員・聖の眼を引かないわけがない。
果たしてそれは、すぐに聖の眼に触れることとなった。
12月に入ってすぐ、チャールズ・オスカー・ミラー記念礼拝堂の裏手に、
人目を遠ざけるように、ひっそりと南天が実をつけ始めた。
枝も細くいかにも控えめな姿だが、何しろ実が赤い。
実がなっている=食べる=グリーンハントという単純かつ明快な図式が思い浮かぶ
食の権化・聖である。迷うことなく青山学院中等部緑信会の顧問・林謙二先生にコンタクトを取った。
チャールズ・オスカー・ミラー記念礼拝堂――
「この中には有名な金色の十字架があるらしい……」
そんな話を耳にしたのはつい最近のことだ。今日、グリーンパーティーの集合場所に選んでみたのだが、冬の穏やかな太陽の下、ゆるやかな空気に包まれているように見える。
格子ガラスを見やった。夜、ごくたまに、滅多に開くことのない礼拝堂から、黄金色の光が漏れているのを目にすることがある。有名な十字架の話を聞いた後はことさら物語を感じずにはいられない。
しかし、今は昼下がり。
平穏そのものだ。
賑やかな声に振り返ると、グリーンパーティーの面々がやってきた。
(今回の参加メンバーはともみちゃん、ゆうきちゃん、あやかちゃん、りおちゃん、ゆうこちゃん、みゆちゃん、ほのかちゃん、ゆうなちゃんです!)
言うが早いか、みんなが一斉に探し始めた。
大学3号館、4号館に囲まれた緑地帯の周りを歩き始めるメンバーがいたり、17号館の方へ歩いていくメンバーもいたりする。
南天は地味だけどしっかりと目立つ木だ。
そんな木を前に、質問しても答えが見えているようなもの。
しかし侮るなかれ!
聖は内心“したり顔”でほほ笑んだ。
この時期、赤い実をつける木が他にもあり、南天を上手いことカモフラージュしてくれている。(もちろん、植物にはそんなつもりはないだろうが)
今度こそ、本当に今度こそ、簡単には見つけられまい。
その時、ほのかちゃんが悩ましそうに首を傾げた。
記録によると、南天がイギリスにもたらされたのは1804年のことです。ウィリアム・カーというプラント・ハンターによって中国からロンドンにある現在のキュー王立植物園にやってきました。この植物園は世界遺産になっているので名前を聞いたことがあるかもしれません。当時のヨーロッパでは植物採集のための専門家がいて、世界各地から本国にない植物を収集していったのです。このような膨大な収集の歴史を、大英博物館やキュー王立植物園のコレクションとして私たちが目にすることができるのですね。この植物園には日本の民家もあり、そのそばには南天が植えられています。英語では日本語を借りてNandina、またはそのままnantenと呼ばれています。あるいは、「天の」という意味の形容詞であるcelestialやheavenlyを用いて、celestial bambooやheavenly bambooという呼び方もよく知られています。bamboo(竹)とされる理由は、葉が茂ると竹の葉に似ているからだとか。
アイルランドで生まれ日本に帰化したラフカディオ・ハーン。みなさんが子供の頃に読み聞かせてもらった『怪談』(Kwaidan)の作者で、日本名を小泉八雲といいます。八雲は日本での生活を綴った「日本の庭にて」という作品で、島根県松江自宅の庭にあった南天を「優美な木」と述べていますが、その植物が持つ伝説を次のように紹介しています。
「この木にも、大変面白い伝説がある。もし不吉の前兆となるような悪い夢を見たなら、早朝にその夢を南天に囁(ささや)くとよい。そうすれば、その悪夢が正夢になることはないというのだ。」
南天に「難を転じる」という意味を読み取る言い伝えですね。松江を去って数年後、八雲は東京帝国大学文科大学(いまの東京大学)の講師として英文学を教えます。(ちなみに八雲の後にその科目を引き継いだのは夏目漱石です。)学生を前に文学と作家が持つ力を熱く語る八雲には、南天が実を結ぶ日本庭園を見て得られた想像力や思想が大きな影響を与えていたことでしょう。
参考文献
ラフカディオ・ハーン『小泉八雲東大講義録 日本文学の未来のために』 池田雅之訳 角川書店、2009年。
―――「日本の庭にて」 『新編 日本の面影』 池田雅之訳 角川書店、2000年。
“Nandina, n..”Oxford English Dictionary, Oxford University Press, 2019,
https://www.oed.com/view/Entry/240237?redirectedFrom=nandina#eid. Accessed 5 January 2020.
Steven Foster and Yue Chongxi. Herbal Emissaries: Bringing Chinese Herbs to the West. Healing Arts Press, 1992.
(次回に続く)