Interview インタビュー あおやま すぴりっと

人を幸せにするために、 人と向き合う〈卒業生・古田 貴之さん〉

技術だけで未来は創れない

──その後の仕事の経緯について教えてください。
二足歩行のロボットが完成し、それから初めて人工知能を載せたり、サッカーさせたり。青学であのチームが動き出したときに「人のつながりって大事だな」と実感しました。どうすればこのチームの成果がいちばん良くなるか、その本質だけを見ようと思っていました。やがて国の研究機関に移り、大きなプロジェクトに加わりました。チームの仲間の就職が決まるまではどこにも行かないと決めていたのですが、彼らも「どこへでも一緒に行きます、チームで行きたいです」と言ってくれました。現在籍を置くfuRoにも、青学時代から続く開発チームとともに移籍してきたんです。
さまざまなプロジェクトに関わり、いろんなものを開発してきましたが、最近は〝ものづくり〟よりも〝ものごとづくり〟が大事だと考えています。新しい技術は、それが使われることが当たり前という文化を創りだしていかなくてはいけない。そして文化を創るということには、経済、宗教、生活習慣といろんなものがからまないといけない。技術だけ開発してもダメなんです。衣食住といった人間の根幹に関わる部分で、いかに世の中をサポートしていけるか。 さらにそれが地球環境に余計な負担を与えずに済ませられるか。これからは、そうした全体を見るグランドデザインが大切です。

──新しい技術を生む、その発想の 原点となるものは何ですか。
僕には娘が2人います。どうすればその娘たちの時代が良くなるか、それが原点ですね。一人だけの幸せはあり得ません。もちろん僕の子どもだけが幸せになることもあり得ません。世の中すべて人間関係で成り立っているのだから、まわりのみんなが幸せでないと個人の幸せはないというのが僕の持論です。僕はロボット技術者だから、その技術で日本を、世界を良くしたい。子どもたちが大人になる世の中を良くして、みんなを幸せにしたい。そう思っています。

 

大切なのは、良い仲間と巡り会うこと

──古田さんが目指す到達点はどこですか。
満足したら進化はストップしてしまいます。ですからどこが到達点とは言えないですね。僕には、欲しい「物」はないんです。9割本気・1割ふざけてよく言っているのは、「欲しいものはただ2つ。1つは、未来のロボット。もう1つは、奥さんと子どもの愛」どちらも売ってないからお金で買えるものではありません。

僕が思い描いているのは、「未来創り」。技術だけじゃダメだと思ったとき、気がついたんです。教育って重要だ、と。だから小学生を中心に「ロボット教室」を開き、子どもたちにロボット技術の楽しさを感じてもらっています。子どもは未来の大人です。ロボットじゃなくてもいい、何か「志」を持って諦めずにやってみようという気持ちを育てられたらいいんです。こういう機会を通じて、「嫌いなことはやめてもいいけど、好きなことは絶対にやめないで」ということを伝えたい。

青山学院初等部でも、アマチュア無線クラブの6年生の活動をサポートしています。みんな実に熱心に取り組んでいてすごいですよ。恐るべしです。

子どもは大好きです。昔も同級生がいないところでは結構子どもたちと遊んでいたのに、学校の友達には隠してた。やっぱりカッコつけてたんですね。

──青山学院には、未来の科学者を目指す子どもたちも多いと思います。 そんな後輩たちにメッセージをお願いします。
青山学院に在学中に、良い仲間を見つけよう。自分の弱い部分をちゃんとさらけ出せる人、カッコつけずに「こんなにダメな自分だけど、なんとかしてよ」と本音で頼れるくらいの仲間を見つけてください。自分をさらけ出さないと、相手も出さない。全部あるがままがいいんです。僕も開き直れたから変われました。いいじゃないですか、あるがままで。ラクですよ。 ありきたりな言葉ですが、良い仲間は一生の財産になります。僕自身、それで生きているようなものですから。

千葉工業大学東京スカイツリータウン🄬キャンパス
研究活動を通じて生まれた先端技術を応用した未来技術体験アトラクションゾーン。
レスキューロボットや火星探査船シミュレータなどが気軽に楽しめる。
東京ソラマチ8階 10:30~ 18:00(入場無料)/
[Photo:千葉工業大学未来ロボット技術研究センター]

 

古田 貴之さん

ロボット・クリエーター
古田貴之さん

1968年東京都生まれ。博士(工学)。千葉工業大学 fuRo(Future Robotics Technology Center:未来ロボット技術研究センター)所長。青山学院大学理工学部卒業、同大学院博士前期課程修了。同博士後期課程在学中に理工学部機 械工学科の助手となり、二足歩行ロボット “Mk. シリーズ ” を開発。
独立行政 法人・科学技術振興機構のロボット開発プロジェクトを経て、2003 年に fuRo を設立、所長に就任。ロボット技術を社会に役立てるために企業とも積極的に 連携し、世界最先端の研究に取り組む。

 

fuRo(Future Robotics Technology Center)

fuRo

千葉工業大学 未来ロボット技術研究センター
「ロボット技術で未来の文化を創る」をミッションに、学校法人直轄の研究所として2003 年度に創設。ロボット製作に必要な様々な専門家が集まっており、研究・人材育成のみならず、企業と連携した事業化にも取り組んでいる。

fuRo
[Photo:fuminari yoshitsugu]
「青山学報」246号(2013年12月発行)より転載