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数学B「ハイレベル数学演習」『数学好きよ集え!AJH数学倶楽部』【青山学院中等部3年生選択授業】

1971年に始まった中等部3年生の「選択授業」。中等部生たちの個性をいかし、将来の可能性を伸ばすよう、様々な分野の授業を用意しています。
詳しくは、まとめページをご覧ください。

 

数学B「ハイレベル数学演習」

今回は、数学B「ハイレベル数学演習」の授業についてご紹介いたします。
授業取材レポートと、担当の近藤勇太郎先生のインタビューをお伝えいたします。

 

授業レポート

2021年11月24日

 

お昼休みの後、心地よい眠りに誘う暖かい日差しが教室を満たす5限目。
しかし、数学4教室は、静かな緊張と活気に満ちていた。

 

数学ハイレベル授業レポート

 

授業開始前から、仲間同士でなにやら話し合いをしている。
女子6名、男子8名の計14名の少数精鋭。
近藤先生は、黒板に問題を映し出す投影機の準備をしている。

今日は、2班に分かれて、課題の問題解説を生徒が順番に発表するという。
教室前方には第2班用の電子黒板が、後方には第1班用の投影機と黒板が用意され、それぞれ同じ問題文が映し出されている。
1班は前方に、2班は後方にかたまり、両班二人の解説者が同時に、同じ班の仲間に向けて、問題の解き方を解説していく。
“一日先生”だ。

今日の課題は、図形の中の長さを求める問題だ。

一日先生が、自分の名前を告げると、班の仲間から拍手が送られる。
そして解説が始まった。

 

数学ハイレベル授業レポート

 

一日先生からは、「相似」「比率」「正三角形」「合同」「等積変形」といった単語が出てくる。

「これで終わります。」と生徒が解説を終えると、同じ班の仲間から拍手が送られる。
最後に「質問はありますか?」との問いには、正しい解への導き方であり、わかりやすい説明だったためであろう、ほとんど質問は起きない。
解説が終わると先生からのコメントが送られ、時には補足説明も行われる。
再び全員で拍手をし、問題解説は終了。
そして次の問題の一日先生が前に立つ。
今日は課題の1~5番まで。

電子黒板の使い方にも慣れていて、色を区別しながら上手に解説を行っている。黒板では、色チョークを使い分けている。

 

数学ハイレベル授業レポート

 

数学ハイレベル授業レポート

 

聞いている生徒からは、「あっ、そうか」という発見の声が聞こえてくる。
「あいつは将来、先生になるといいと思う」という感心の声が聞こえてきた。

Y君が解説を始めた。Y君は冗談も交えて解説している。「どこに相似な図形があるのかが重要です。折り返しの問題ではよく対称軸に対して垂線を引きますが、この線が私にとっての問題を解く上でのトリガーとなります。」まるで塾講師のようだった。このクラスのリーダー的存在だ。数学がなによりも好きなのだろう。解説するのが楽しそうだ。

 

数学ハイレベル授業レポート

 

反対側で説明しているI君も丁寧に解説をしている。
Y君もI君も、見事、正解にたどり着いた。

ここで先生から補足説明が行われた。
「二人とも発想は一緒でした。もう一つ、別解として面積比を利用する方法もあります。」
先生の解説に、生徒からは、感嘆の声がもれてきた。
「どちらが良い解き方、ということではなく、どちらの解き方も発想として覚えておいてほしいです。」

 

数学ハイレベル授業レポート

 

次の問題の解説者のMさんが、
「今の先生の説明のせいで、説明する内容が半分になってしまいました」と始める。
Mさんは、まさに先生が直前に説明した面積比から求める方法を用いていた。

解説が終わると先生から「この問題は僕も最初解けなかった問題です。Mさんは近藤越えをしました!Mさんの解き方で面白い所は“方程式”が出てくるところです。」。

するとMさんは「うれしいです」と笑顔になった。先生も苦労する問題を解ききることができて誇らしい表情だった。

一方のT君は「等積変形」を使って解を導いていた。
先生は「先生にも教えてくれる」ともう一度生徒に説明をさせ、「みんな伝わっている?」とほかの生徒たちに聞く。生徒たちは頷きを返していた。
解にたどり着く方法も様々だ。それらの様々な方法を生徒たちも理解しているのだ。
生徒みんなが同じ方向に向いている連帯感が伝わってきた。

 

数学ハイレベル授業レポート

まもなく終鈴が鳴る時刻。
先生「先ほど渡した評価シートに、今日解説してくれた仲間へ『どういうところが良かった』『こうしたらもっとよい』といった感想を書いておいてください。」
それぞれが良かった点や改善点をフィードバックし合うことで生徒たちはお互いを高め合っていた。

 

数学ハイレベル授業レポート

数学好きの先生のもとに、数学が好きな仲間が集う「数学Bハイレベル数学演習」。難解な問題ほど、おいしいご馳走に見えるのだろう。目には見えないが、“同じ仲間”という連帯感が垣間見え、仲間に安心し、信頼しあっている様子が、この1回の授業で感じられた。
将来はきっと、数学の解き方にも様々な方法があることを学んでいるように、生徒一人一人が様々な道をたどりながら、きっと正しい解=人生の道を歩んでくれることだろう。

授業レポート(文/茂 photo/梨)

 

近藤勇太郎先生インタビュー

──先日の授業を取材して、先生も含めて“数学が好きな仲間たち”という一体感を感じました。
どの生徒も一生懸命取り組んでいて、選択授業らしく、自分でもうれしいかぎりです。

近藤勇太郎先生
近藤勇太郎先生

 

──授業のねらい・目的を教えてください。
普段の数学の授業の中では扱える内容に限りがあります。通常の授業のレベルを越えた内容に興味がある生徒もいて、もっと難しい問題を解きたいという生徒の声を耳にしていました。一貫校の特性を活かして、ただ、知識を詰め込む授業ではなくできるだけ生徒に考えさせたり、数学の面白さを伝えられる講座にしたい。この授業は、額に汗をかきながらでも数学を解きたい、その解法の面白さや解けた時の喜びを感じて欲しいと思い開講しました。

──授業の特色を教えてください。
目指しているのは、単純に難しい、何かに気づかないと解けなくて難しい、という題材ではなく、数学的な考え方を必要とする問題、発想の面白さがある問題、他の単元とのつながりがある問題をできるだけ選んでいます。2学期は、「幾何(図形)」を中心に扱ってきましたが、1学期には「確率」や「代数」の分野も扱いました。生徒たちは自由に相談したり、互いに解法を教え合ったり、そこから公式を作り出したりします。確率の単元では、高校生で習う順列や組み合わせの公式を自分たちで作り、それを使って様々な問題にチャレンジしました。一方通行の授業でなく、生徒たちが主体となって学ぶことができているのが本授業の特色です。

──どのような授業方法なのでしょうか。
基本的には、まずは問題演習を行います。その問題演習から他の単元へのつながりや新しい考え方の発見などをしていきます。1学期は問題演習の解説を私がしていましたが、それだけでは味気ないので、2学期はゼミ形式で生徒たち同士で教え合うようにしました。

生徒たちの最初の説明は自分の解き方を一方的に伝えるだけの説明でした。どうやったら他の人にわかりやすく伝わるかを考えておらず、口だけの説明になっていました。その様子を見て、人に伝わるようなパフォーマンスを意識させました。例えば、色を使い分けたり、問題解法の糸口となったポイントを丁寧に説明するようにアドバイスしました。また、子どもたち同士で「説明のここが良かった」「ここが早くてわからなかった」などの感想をまとめ、生徒たちどうしでフィードバックをしあいました。すると次の自分の番の時には、仲間の意見を取り入れて説明を行っていました。自分の考えを表現するという所にもこだわることができていて、数学以外の力も身に着いたのではないかと思います。

──数学という教科に留まらず、プレゼン力をも養っているのですね。授業を通しての生徒の変化ですね。
今年初めてゼミ形式を取り入れました。普段の授業だとあまりできないので選択授業で試しにやってみたのですが、生徒の主体性が引き出せたようにも感じています。生徒たちはしっかりと準備をしてくれています。仲間同士で教え合うので、自分の準備が不十分だと恥ずかしいという気持ちも働いているのかもしれません。また、生徒同士で授業をさせると、「そんなやり方があるんだ」という声や「面白い解き方だな」というような生徒の声を良く耳にするようになりました。私が一方的に授業をするよりもより考え、その結果理解が深まったり、心に残るものがあるのでしょう。それが生徒の大きな変化だと思います。

──短い期間でこんなに成長するのかと、驚きですね。
生徒たちが一生懸命に取り組んでいるからだと思います。

──一生懸命にさせるのが難しいところだと思いますが。
選択授業の良さであると思います。好きなものを自由に取らせているので、一生懸命になりやすい環境であると思います。

──なぜハイレベルの授業を始めようと思ったのですか。
今年が9年目で、これまでいろいろな選択授業をしてきました。自分自身が新しいことをやっていないと自分の勉強にもなりません。普段の授業では数学が得意な生徒ほど退屈そうにしていることが多いです。そういった生徒に火をつけるような授業がしたいなと思い今年は教科書を超えたレベルの問題演習をすることにしました。

──実際にうれしそうにしている生徒たちばかりでしたね。出来る子ほど孤立しかねない場合もありますが、そういった子たちが集まって、同志となって数学を楽しんでいる姿に安心感を覚えました。うれしい姿だと思いました。
普段の授業だと、一人で問題を解いて終わり、という環境でした。この選択授業を選んだ生徒たちは、やはり数学が得意な生徒たちですが、それでも一筋縄ではいかない問題が多く、生徒同士が机や頭を突き合わせて、「どこまでできた?」「問3は解けたけど問2が解けない」「逆に問2が解けたけど問3が解けない」など、うんうん言い合いながら相談したり、頭を抱えながら取り組んでいます。
普段だと相談したり、そこまで1つの問題に没頭できないですが、1週間かけてやっと解けたという経験をさせる、そのような問題を与えられればと思っていました。

近藤勇太郎先生

 

──生徒の感想や回答で驚いたり、感動したことはありますか。
この授業では、予想していなかった解き方をしてくるケースが多くて、自分でも気づかない、考えも及ばないような切り口を見つけてくるので、感動とも言えますし、勉強になったとも言えます。問題が分からない時は先生に聞いてもいい、ということにしていたのですが、実際にはほとんど来ませんでした。子どもたちは各々責任感というか、絶対に自分で解くんだという気持ちで取り組んでくれていました。彼らの強い気持ちを見て、感心しましたし、「やるなー」という気持ちです。「先生、ヒントは教えないでください。自力で解きますから」と言われたこともあり、そういうやりとりができているのもありがたいですね。

──先生自身が数学に興味をもったきっかけを教えて下さい。
すごく数学が好き、得意だということはありませんでした。学校の先生になろうかなと漠然と思っていました。ただ今思い返すと子どものころから、頭の中で計算したり、問題を解くのは好きでした。切符に4つの整理番号の数字が並んでいて、足して10にしたいなあ、と考えている子どもでした。
高校・大学の時にお世話になった先生方がたまたまいい先生ばかりだったなあと思っています。高校時代にお世話になった先生の授業をしている姿を見て、数学の先生になろうと決めました。

──大学はどこで学ばれたのですか。
慶應義塾大学の理工学部数理学科の数学専攻でした。教員になる仲間は少なかったのですが、“数学おばけ”みたいな人がいっぱいいて、最初は、これは間違ったところに来たかなと思いました(笑)。しかし、仲間に恵まれ、大学院まで進みました。ところが私の研究室には二人の院生しかおらず、もう一人は別の研究室から移ってきた人なので、一人で孤独に研究していました。周りの他分野で頑張っている仲間からも支えられながら6年間の研究生活を過ごしました。

高校時代が楽しくて、楽しいだけで先生になってはいけないと聞きますが、自分にとって居心地が良かったクラスや学校をほかの子供たちに与えられる人になりたいなと思って先生になりました。

──大学時代はさぞ楽しかったのではないでしょうか。
楽しいことも多かったですが、研究はつらいと思うことも正直ありました。高校と大学の数学の一番の違いは、どんどん抽象的になっていって、いろいろな周辺知識も勉強しなければいけなくなります。研究している内容も必ず解ける、結果が出るというものではなく、やってみたけどよくわからない、いい結果が出なかったということもざらにあります。果たして卒業できるような結果が得られるだろうか不安を感じながら研究していたのを覚えています。

──数学の楽しさ、面白さをどこに感じていらっしゃいますか。
先ず、問題を解く楽しさがあると思います。中学・高校・大学の1・2年生の頃は、与えられた条件から試行錯誤して問題を解ける喜びがあると思います。
そして実は、一見すると繋がりがないように思える問題同士が背景のところでは繋がっていたとか、全く違う分野の考え方を使うと簡単に解けるなど、数学というのはぶつ切りではなく、繋がりがある、そういう面白さがあると思います。
数学の繋がりや背景まで見えてくるとより問題自体の面白さに気が付きます。

──高次元の話ですね。
中学生の問題でも感じられる面白さだと思います。先日のこの授業の中で、ある生徒が図形の問題なのに関数の考え方を使って説明をしたことがありました。このような解き方はほかの子供たちにはとても新鮮だったと思います。

──先生の仰る数学の楽しさに生徒も一歩近づいたようですね。
そうですね。自分で思いついたところがすごいなと感心しました。また、身近なところに数学はあふれています。生徒の日常と数学とが結びついていることを紹介し、生徒に数学の面白さや奥深さを伝えられたらいいなと思います。

──繋がっていきますね。数学は好きだけど、特定の分野が苦手な人へのアドバイスをいただけますか。
よい題材を解くことが大事だと思います。難しいところでもあるのですが、自分のレべルに見合ったちょうどいい問題を解くのが大事なことだと思います。教科を問わず共通していることだと思いますが、背伸びして難しい問題を解いてもつらいだけだと思います。考え方のポイントがあって、「なんでそう考えるのか、なんでその公式を使うのか」とい気持ちで考える力が育つと、問題の核になる部分が掴めてきます。

──私は「確率」が苦手で、どうしてもすべてのパターンを数えてしまうのですが、数学に向いていないのでしょうか。
向いている・向いていない、ということはあまり無いと思います。起こりえるパターンを全て数えてしまうことも立派な解法の一つです。それをもう少し楽に数えたいだとか、楽に数えるにはどこがポイントなのだろうかを考えることが前に進めるポイントだと思います。
また、数学も理科の実験のように色々と試してみたり、具体例で考えてみることも大切です。1つの解法にこだわりすぎず、色々な方法を試せる柔軟な思考が必要かもしれません。

──生徒たちへのメッセージをお願いいたします。
数学そのものを使う仕事に就く人はごくわずかだと思います。生徒には、数学を通して物事を順序立てて考えたり、数学を通して身につけられる力があると思うので、苦手だから、問題が解けないから、点数が取れないからではなくて、数学が解けて楽しいな、と思った頃の気持ちを忘れずに、粘り強く勉強をしてほしいな、と思っています。

近藤勇太郎先生
インタビュー/茂 photo/梨

 

生徒インタビュー

──なぜこのクラスを選んだのですが。

Aくん 数学が好きだからです。

Bさん 数学が好きだからです。問題を解くのが好きです。

──楽しいところはどこですか。

Aくん 難しい問題を解いて、自分の解き方をほかの人にも説明したり、ほかの人の解き方を聞いて、自分とは違う考え方を知ることができるところです。

Bさん 難しい問題をみんなで話し合って解くところです。ほかの人の解説を見られるのが面白いです。

──将来の夢は?

Aくん 人工衛星を作りたいです。

Bさん 医者になりたいです。