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英語B「ギターとのコラボ!」【青山学院中等部3年生選択授業】

1971年に始まった中等部3年生の「選択授業」。中等部生たちの個性をいかし、将来の可能性を伸ばすよう、様々な分野の授業を用意しています。

今回は「英語B」の授業を取材しました。

 

授業レポート

ワイワイ楽しそうな声が聞こえる音楽教室。ギターを弾きながら英語の歌を歌う授業が行われる。今回お伺いした6限は、女子生徒のみで、まるで女子校のような雰囲気だった。

最初に自己評価をするためのプリントが配付され、これまでの授業を振り返ることから始まった。
「どのくらい英語の歌詞の聞き取りができるようになったか?」「どのくらい意味を理解できるようになったか?」といった質問に回答していく。

 

その後、歌詞が一部空欄になっているプリントが配られ、クリスマスの定番曲「Silent Night」が流れた。歌詞を聞き取り、空欄を英語で埋めていく。
一斉に曲を聴くことに集中し、賑やかだった教室はあっという間に静寂に包まれ、歌がよく耳に入ってくる。
何となく聞き取ることができても、その正確なスペルを導き出すことは難しい様子だ。
しばらくして正解が書かれたプリントが配付され、先生が発音しながら生徒と共に日本語訳の確認をしていく。
「残り2番まで自分で日本語訳をしてきてね」と課題が出された。

続いてギターのコードが書かれたプリントが配付された。
そしてギターを大切に扱うように伝えながら、生徒に渡していく。ギターは音楽科の先生のご好意で授業で使用しているものをお借りしているとのこと。
コードを見て、音を出し始める生徒たち。足を組んでギターを弾く姿はさまになっていた。

小田先生は教室を回り、英語の歌を口ずさみながらコードのおさえ方を教え、次に先生の歌に合わせて生徒がコードをおさえる。呑み込みが早い!
そして先生の歌声は、普段の元気をいただけるパワフルな声とは違って、なんと甘い声だろう。
グループ内では生徒同士でアドバイスをしながら練習している。「(ギターを持っていない人が)歌ってあげると、弾きやすいよ」と先生。だんだんとコツをつかんできたようで、短時間で上達が見えた。

この英語Bを選んだ理由を「先生がおもしろいから!」という生徒がいたのも頷ける。このあとの小田先生へのインタビューでも、先生の元気な笑い声でこちらがパワーをたっぷりいただくことができた。

授業レポート(文/香 photo/森)

 

先生へのインタビュー

──授業で英語の歌とギターのコラボレーションを始めたきっかけは何でしょうか
私はずっと英語の授業で歌を取り入れてきたので、選択授業でも同様にできたらといいなと思いました。去年(2020年度)から2年生の音楽の授業でギターを扱っていると聞いて「ギターを弾きながら歌を歌えたらいいな」と思い、両方できる講座を作りました。

小田先生)
担当の小田 文信先生

 

──授業はどのように進めるのですか
1学期はディクテーション(読み上げられる外国語を書き取ること)や歌を歌います。そして音楽の授業で何のコードを勉強したかを聞き、“あと3コードぐらい覚えれば、あの曲が弾けるな”と考えながら、コードを確認して、実際にギターに触れたのは2学期になってからですね。
女の子たちは新しい曲が好きで、生徒たちのニーズとこちらが選んだ曲が同じにならないんです。生徒たちのニーズに応えようとすると、曲が速くてギターも難しくなってしまいます。
若い子たち、生徒たちが好む歌は、スラングがありあまり教育によくないんじゃないか?という意味のものが時々ありますが、そういう曲が人気だったりするんですよね。本当は生徒が好きな曲がつかえると良いのですが……。私も聞き取れないので、一生懸命調べて、“こんな意味があったのか。初めて知った”となったりします。
そのような訳で、もう少し分かりやすい昔の曲(この取材の時は「Silent Night」)を扱っています。長年歌われているような曲はやはり歌詞も良いですしね。
また“コードを2つか3つ覚えたら、曲が弾ける、そういう歌もあるんだよ”ということも伝えたくて、少ないコードで弾けるような曲を調べて取り入れます。

英語Bの授業)

 

──この授業を通して生徒に学んでほしいことは何でしょう
学んでほしいことは特にありません。楽しくやればいいじゃない!!と思います。

──先ほどこの授業を選んだ理由を生徒さんに尋ねたところ、「小田先生が楽しいから」と先生のお人柄で選んだ生徒さんがいたのも納得しました。
私は、「適当」という言葉が大好きなんです。私のクラスの生徒に「小田はどんな先生?」と聞いたら多分「テキトー」って返ってくると思います(笑)。

──それでも伸びるのではないでしょうか、中学生は
伸びます。自分も初等部から教員生活も含めて50年青山学院に通っています。自分たちを育ててくださった先生方の時代から、“何でもやっていいよ”というスタンスで、また、何か悪いことしたらバシッて怒られていました。みんな怒られて「あ、これはまずい」と気が付くんですよね。

──先生ご自身も経験されてきたことなのですね
そうそう、だから「自由にやりな」って。こちらも「あ、これまずいな」という時は介入しますけど、あとはもう自由で、何というか、実は、失敗させたいんですよ。

──失敗から学びを得るということでしょうか
はい。失敗することから、リーダーになれる人材を育てたいとずっと思っているんです。失敗したことのある人のほうが色々と経験値が高いので、何かあった時に対応ができると思うんですよ。“先生に怒られた”とか。失敗したら、“じゃあ今度はこういう風にできる”と学ぶ。自由に自分でやれることをやらせて、失敗して、その様子を見ていて……、何も手出ししません。
特に人間関係においてもすぐには介入せず、黙って見ていると、生徒たちが自分たちで解決しています。
下手に我々が介入してしまうと、もっとこじれてしまうこともあるから、ずっと見ていて、“ああ、ここがポイントだな”という時に声をかける。若い先生たちには「黙って見てなさい」とアドバイスしています。

──積極的に働きかけるのではなく、見守っていらっしゃるのですね
やはり教員が入らなければならない時、例えばいじめなど絶対してはいけないことが起こった場合すぐに対応します。
それ以外は、「辛いか?」って聞いて「辛いです」と返ってきたら「そうだろ」って手をかします。
若い先生たちを見ていると「失敗しちゃいけない」「失敗したくない」と思っている人が多いように感じます。
先生たちが真面目すぎる分、少し学校が変わりつつあるかなというふうにも感じています。もう少し先生たちも肩の力を抜いて、子どもたちが自分で考えられる力を養い、自立できる生徒を育ててほしいなあ、と。若い先生たちにも「適当さ」がほしいですね。

 

──今後の展開は
来年はどうしましょう? ギターを用意することのハードルが高いんです。音楽の授業で使うものを好意で借りているので、壊してしまったらたいへんです。いつも「絶対(ギターを)ぶつけるなよー」と言っています。この音楽室も今年度はたまたま空いていましたが、他の学年も使いますから場所の確保も必要です。
女子生徒で、すごくモチベーションが高い子だと、自分たちで振り付けを考えたりしてプロモーションビデオのようなものを作ってみたいなどとやりたいことを提案してくれるので、そういうこともできたら良いなと思っています。

──先生はもともと英語の歌がお好きだったのですか
中学生の時、私はビートルズの少しあとの世代なのですが、その頃に結構ビートルズの歌を聴いたり歌ったりしていました。
中等部の教員として入職した時、どのように教えたら良いのかと戸惑っていると、中等部の方針は自由だからと先輩に言われ、「えー! 自由でいいんですか!」って。なのでいつもギターを片手に授業をして歌を歌うという感じでした。当時は学期の終わりになると“授業範囲が終わらない!”と焦るような、そんなめちゃくちゃな授業だったんです。歌ばっかり歌っているから、他の先生には「また今日も流しか~!」と言われて、からかわれていました(笑)。

──生徒は楽しそうですね
昔の生徒はその記憶が強いみたいです。卒業生から「今もギターやっているんですか?」と聞かれて「カリキュラムがキツくなっちゃって、そんなにギターを弾いてる時間がないんだよ~」と話しています。

──失礼かもしれませんが、英語の発音がとてもおきれいだなと思いました
自分も歌で勉強したようなものなんですよ。それに英語の歌の切れ目は、意味のある切れ目で勉強になるんですよね。

──先生はギターをいつから始められたのですか
中学生の頃は三味線を弾いていたんです。三味線とお箏が一緒になった邦楽研究部という部活に入っていました。ギターは、高校の時に友達が弾いていたので“ちょっと貸して”と言って始めたのがきっかけですね。ちゃんとギターを弾くようになったのは教員になってからだったと思います。
そうはいっても独学で、自己流だからやっぱり下手ですよね。将来、退職したあとにやっぱりどこかで習いたいかなと思っています。

──夢はどこかの舞台に立つとか
いやそこまでは……(笑)。ボケ防止で指の動きを。

──生徒さんの言う、“小田先生に元気をもらえる”といのうが短時間でも分かりました。お話しするだけで小さい悩みなどスッキリしそうです。
そうですか? まあせっかくお話できたんだしね、楽しくやりましょう。

──話している時の声ももちろん素敵ですが、特に歌っている時は甘い声で、それもまた魅力なのではないかなと思います
えーそんなことないよー。絶対ないよー、ひゃー!

──先生からそのようなリアクションをいただけると、こちらも元気になります。
ありがとうございました

 

インタビュー/香 photo/森