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技術B「電気自動車」『電気自動車コンテストで入賞!』【青山学院中等部3年生選択授業】

1971年に始まった中等部3年生の「選択授業」。中等部生たちの個性をいかし、将来の可能性を伸ばすよう、様々な分野の授業を用意しています。
詳しくは、まとめページをご覧ください。

今回は、技術B「電気自動車」の電気自動車コンテスト出場レポートをお伝えします。

 

電気自動車コンテストに出場

コンテスト 2022年8月27日(土)


朝から30度を超える炎天下。
今日、ここ東急自動車学校(東京都多摩市)で「エコ1チャレンジカップ 2022 ~中・高校生による手作り電気自動車コンテスト~」が行われる。
公益社団法人自動車技術会関東支部、東京都市大学、日産自動車株式会社の共催による大会である。
3年ぶりの現地開催とのことだ。
昨年この大会に、本学中等部の関隆一先生が顧問を務めるマイコン部が出場している。コロナ禍のため「リモートマッチの部」での出場だった。

今回は初めて「現地参加の部」に出場する。
3年生選択授業の「技術B」の授業の中で制作してきた2台の電気自動車で勝負に挑む。
この授業は、国家資格にも挑むという、画期的な授業である。
(前回の授業レポートはこちらをご覧ください。)

 

ミーティングの様子
青山学院に割り当てられたスペースにてミーティング

 

参加する生徒は11名。選択授業「技術B」を履修している生徒たち(兼マイコン部)。サポートとして、熊捕さん、津田さん、岡野さんの3名の方々も来てくださった。そして関先生。
今回、2チームに分かれて2台の自作の電気自動車「sekyryu1号」「sekyryu2号」で競技に臨む。2チーム合わせたチーム名は「チームAGRT(選択技術・マイコン部)」。

「sekyryu1号」は、授業中「ランボルギーニ」と呼ばれていた黒い車体。
間違いなく、関先生の名前から名づけられている(セキリュウイチ・ゴウ)。

 

sekyryu1号
sekyryu1号

 

「sekyryu2号」は、「フェラーリ」と呼ばれていた赤い車体。

 

sekyryu2号
sekyryu2号

 

どちらも廃材を利用して作られている。
重量は約14kgで、グループAの中で最軽量とのこと。

普段、中等部の教材などでお世話になっている熊捕さんが2台の車体を運んでくださった。
生徒たちはお揃いのツナギを着て、車体を降ろし、部品をチェック。
暑さのせいか、生徒たちの動きが鈍い。どうしたのだろう? 先生とサポーターの3名の方々、そして一部の生徒だけが準備を進めている。

そして車検へ。

 

車検の様子
車検会場へ

 

車検の様子
安全のための厳しいチェックがされる

 

この車検がなかなか厳しかった。
車両規則に反していないか細かい専門家の方々がチェックする。自動車技術会や日産自動車のまさに専門家の皆様だ。アドバイスしていただく言葉は、どれも今後に生かせる技術に繋がる。
最初の車検では、ブレーキがかからない、というトラブルも発生!
下り坂をどんどん降りて行ってしまった。
なんと2度もやり直し。
「厳しいなあ。でも安全を担保しないとだめだからなあ」と自らに言い聞かせている関先生。
その都度、微調整を行っていく。
「車検が通らない。出場できないかも」
生徒たちの目つきが真剣になっていった。
低いボディが地面にこすらないように、2度の補修を自分たちで考えて行ったり、各ボルトを六角レンチで締めていく。生徒たちが率先して修理を行っている。生徒たちの心のエンジンがかかったようだ。

 

車検表と車検後の微調整
車検表と車検後の微調整

 

そしてようやく車検を通過。
生徒たち自ら拍手👏👏👏。
良い雰囲気でレース会場へ進出。ピットに向かう。

スタッフの方からルールを教えていただき、スタートの時間を待つ。

 

注意事項の説明に聞き入る生徒たち
注意事項の説明に聞き入る生徒たち

 

コースを10周してのタイムを競う。

 

コース
コース(実施要領より)

 

先ず、黒いボディのsekyryu1号がスタート。チームは6名。順調な滑り出しだ。

 

sekyryu1号スタート
sekyryu1号スタート

 

その30秒後、赤いボディのsekyryu2号がスタート。チームは5名。こちらも滑らかにスタートした。

 

他校の自動車が1台走っている。京急の車両を模したかなり安定した車体で、スピードもかなり速い。どうもこの車には勝てなさそうだ(実際に銀賞〈2位〉を受賞)。

sekyryu1号が帰ってきた。次の生徒にバトンタッチ。駅伝のように、ICカードをたすき代わりにタイム計測器にタッチして、次の生徒に繋いでいく。急くあまりに、慌ただしい感じの交代だが、少しでも良いタイムを狙っている様子がひしひしと伝わってくる。団体戦の緊張感だ。

2周目が終わり、ピットに帰ってきたsekyryu1号。ブレーキとアクセルを間違え、他チームのピットへ行ってしまうというアクシデント。その間、sekyryu2号が追い抜いて行った。sekyryu1号も再び本線へ。

全員、ほぼ一定のスピードで、安定した走りだ。
その後、ピットでの交代も順調。
生徒同士で、次に乗車する生徒のヘルメットやプロテクターの装着の手伝いをしている。

 

仲間同士で準備を手伝う
仲間同士で準備を手伝う

 

交代時にきちんとブレーキをかけていないと少しずつ滑ってしまい、見ていてやきもきしてしまう場面もあったが……。

 

レースを見守る仲間たち
レースを見守る仲間たち

 

 

ピットから仲間に声援を送る
ピットから仲間に声援を送る

 

 


sekyryu1号も順調な走りを見せる

 

sekyryu1号は6名。一人1周か2周走る。
sekyryu2号は5名。一人2周ずつ走る。
以前、授業中の試験走行の様子を取材した際に、壁にぶつかってしまった生徒もいたが、仲間が声をかけて応援している。
今日の本番、みな運転が上手だ。
「少しスピードを出すか」と言って、2周目に臨む生徒たち。頼もしいし、カッコいい。

実況放送によると、sekyryu2号はだんだんとスピードが上がっているそうだ。

そして最後の10周目。
sekyryu2号が帰ってきた。仲間たちが拍手で迎える。
そしてICカードをタッチ。無事の完走に、スタッフの方からも拍手が起こった。
生徒たちもお互いに拍手しあって労っている。
清々しい笑顔があふれた。

 


sekyryu2号フィニッシュ

 

ほぼ1週遅れて、sekyryu1号もフィニッシュ。拍手で迎えられた。

 

sekyryu1号フィニッシュ直後
sekyryu1号フィニッシュ直後

 

「初出場で完走するのはすごいこと」と、スタッフの方々が言っている声が聞こえてきた。

生徒たちに感想を聞いてみると
「暑かった」
「完走できてよかった」
「ぶつからないように気をつけた」
「最後にやってやろうと思ってフルスロットルで走った」

sekyryu2号の生徒は、1周目は20km/hで、2周目は25km/hで走ったという。

みんなで車体を片付ける。
レース前は一人が押すように運んでいたが、帰りは、みんなで車体を持ち上げて運んでいる。

 

車体を片付け

 

サポーターの岡野さんに話を伺った。
「授業の時は、なんとなく生徒たちに“やらされている感”がありました。ですので、こんなに頑張るとは思っていませんでした。やる時はやるんだと知って感動しました」

津田さんは
「思ったより速いスピードでした。なんだかんだ言って生徒たちは楽しそうでしたよ」

熊捕さんは
「生徒たちは最初、先生や我々の作業を遠巻きに見ている、という感じでした。そこでアドバイスしました。自分たちのレースじゃないのかと。すると両方のチームにリーダー的な存在の生徒が出てきて、自分たちで率先して修理などをするようになりましたね」

私たち取材者も、まさに同じように感じており、陰でこのような場面があったことを知り、第三者的立場の方からのアドバイスは有難いとあらためて思った。

 

サポーターの皆さん
左から、サポーターの熊捕さん、岡野さん、津田さん

 

関先生も当然生徒たちの様子を分かっており、忍耐強く、彼らの自主性の誕生を待っていたようだ。学校の授業では決して経験できないことだろう。

10時から車検が始まり、その後、炎天下でずっと微調整を行い、車検が通り、11時20分に競技スタート。終わったのが12時過ぎ。暑いさかりの中、コンクリートの上で、厚手のツナギを着て、マスクを装着して、不快指数100%の中で全員で掴み取った完走だった。
なにせ我々取材者の撮影のためのスマホも、起動しないくらいの暑い環境だった。

 

記念撮影
sekyryu1号のみなさん(左)とsekyryu2号のみなさん(右)

 

また、他校は電気自動車製作を専門に行っている部活動での参加がほとんどで、週2時限の選択授業で参加するチームは無い。しかも1学期は8回の授業だった。初出場で2台とも完走できた。我がチームが自慢できることだろう。そして関先生の情熱なしには、ここまで来られなかったことは間違いない。

 

関先生
関先生

 

午後は、制服に着替えてシミュレーター体験。本格的な機械が用意されていた。

 

シミュレータ体験
シミュレータ体験

 

最後にミーティングを行い、今大会の成果と今後の課題が明確になった。

解散後、駅まで2㎞の道のりを歩いて行く生徒の足取りは軽く、涼しいそよ風が吹いていた。

結果発表・表彰式は翌日、オンラインで配信される。

 

成績発表

さて、翌日8月28日(日)。
オンラインでの結果発表。

「現地参加の部」は全部で15チーム。

先ずは、奨励賞のような、各賞の発表があった。
自技会賞(タイム4~6位)の最初に呼ばれたのがsekyryu2号だ。
画面に赤いボディが現れた時、「やったー」と思わず叫んでしまった。
初レースで初完走。そして周回ごとにタイムが速くなり、2分を切る周回もあったとのコメントをいただいた。

sekyryu1号は都市大校友会賞をいただいた。よかった。
完走し、タイムも優秀、暑さ以上の迫力と熱意を感じたこと、モーターの制御の工夫など多々あったとのコメントをいただいた。

そして競技結果。
残念ながら上位3位には入れなかった。
(まだタイムが発表されていないため、発表され次第お伝えします)

最後に講評してくださった、大会副会長で、日産自動車株式会社の坂本副社長の言葉が残った。
「今大会で成功しても失敗しても、技術面、プロジェクトの進行方法など多くのことを学ぶことができたでしょう。そしてどこに楽しさを感じたかを振り返ってみて、自分のことを知ること、発見することは、これからの人生に役に立つことであり、自分の人生を楽しくできることに繋がります。自動車を作るまでは、こつこつと地味で苦労のある作業ですが、そこでのたくさんの人々が関わるそのプロセスがあってこそ実ります。それはモノ作りだけではなく、学校での勉強も同じことだと思います。ぜひ頑張っていただきたい」

今大会を企画・運営・実施していただいた多くのスタッフの皆様に感謝申し上げます。

この大会を通して生徒たちは、ものづくりの大変さや楽しさを、専門家の皆様から、そして先生から教授していただき、仲間と分かち合えたのではないだろうか。

暑い中頑張ってくれた生徒の皆さん、サポートをしてくださった熊捕さん、津田さん、岡野さん、そして、関先生。楽しく有意義な取材をさせていただき、ありがとうございました。

 

授業レポート(文/茂 photo/梨、茂)

〈協力〉
・公益社団法人自動車技術会関東支部
・東京都市大学
・日産自動車株式会社