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技術B「電気自動車」『国家資格有資格者の誕生!』【青山学院中等部3年生選択授業】

1971年に始まった中等部3年生の「選択授業」。中等部生たちの個性をいかし、将来の可能性を伸ばすよう、様々な分野の授業を用意しています。
詳しくは、まとめページをご覧ください。

今回は、技術B「電気自動車」最後の授業のレポートをお伝えします。

 

国家資格有資格者の誕生!


電気自動車コンテストでの入賞は、前回の記事でレポートをお伝えしたが、今年1月28日付の中等部ウェブサイトに、控えめな形のニュースが掲載されていた。
「1/27(金)国家資格 第2種電気工事士 5名合格しました。」

昨年10月30日に行われた1次試験「令和4年度第二種電気工事士下期筆記試験」に10名の生徒が挑み、5人が合格!
この試験には、全国で66,454人が受験。合格率は53.3%。上期下期を合わせて日本で6番目に受験者が多い人気の国家資格だそうだ。

そして12月24・25日に行われた2次試験「令和4年度第二種電気工事士下期技能試験」に1次試験通過の5人の生徒が挑み、なんと5人とも合格!
この2次試験には、全国で44,101人が受験。合格率は70.6%。
(一般財団法人 電気技術者試験センタープレスリリースより)

「第二種電気工事士」という国家資格の取得、そして電気自動車コンテスト入賞をも目指すという、野心的な授業を追ってきたが、どちらの願いも叶ってしまったことになる!

青山学院中等部の授業で、国家資格合格者を輩出。
🎊おめでとう🎊

 

最後の授業「耐久レース」

なかなか取材に行けず、大学入試業務も終えた、3月1日。2022年度最後の授業に、ようやく取材に伺うことができた。コンテスト以来、約6か月ぶりの再会だった。

「2チームに分かれ、バッテリーの電気が続く限り交代で走り続ける」
「途中で車が止まったほうが負け」
そのようなルールのもと、3年選択授業「電気自動車」最後の授業、電気自動車耐久レースが行われていた。

関隆一先生と、サポーターの津田さんが見守っていた。
テニスコートでは、コンテストの時のランボルギーニこと「sekyryu1号」、フェラーリこと「sekyryu2号」とは全く違う車体が走っていた。

 

新車体1
新車体2
「4-4-25」どこかで聞いた数字だなあ?

 

「sekyryu1号」「sekyryu2号」に比べて、どっしりと安定した車体だ。
機能性を重視したのではないだろうか。
おそらく見えない箇所でも進化しているのであろうと想像できる。

耐久レースの合間に、合格した生徒に話を聞いた。

 

合格者インタビュー

●Iさん
筆記試験が難しかったです。ギリギリの合格だと思います。
実技試験は、細かいところまできちんとやらないと失格なので、難しかったです。組立のときは緊張しました。
合格だとわかったときはとてもうれしかったです。
関先生の教え方がわかりやすかったです。

6月の授業の様子
6月の授業の様子

●WSさん
過去問を何度も復習していて、その過去問が出ました。
実技は得意な問題がでました。
合格できて良かったです。努力は無駄ではなかったです。

●Nさん
前の日に勉強した過去問が筆記試験で出たので、助かりました。
実技試験は、本当は大雑把な性格で不器用なのですが、慎重にやりました。男子ばかりで女子が私だけだったので、受かればいいなあと思っていました。
複線図や線の色を考えるのが難しく、緊張しました。
試験場に早めに行ったら、WSさんが来たので、少し緊張がほぐれました。
学校で合格したことを知って、めっちゃうれしくて、叫んでいました(笑)。
先生の授業が分かりやすくて良かったです。

6月の授業の様子
6月の授業の様子

●Kさん
筆記試験は、勉強していた過去問とちがう問題が出ました。
実技は、試験前に全部の過去問を解いていました。途中で焦ってしまいミスをしましたが、合格できてめっちゃうれしいです。
父がエンジニア系で、いろいろ質問しました。父も合格を喜んでくれました。将来は、ぼくも技術・エンジニア系に進みたいと思っています。

●MSさん
筆記試験は過去問が出たのですが、自信がなく、五分五分の出来でした。
実技試験は自信がありました。
合格して、母も喜んでくれました。
最初の頃の授業はちんぷんかんぷんで、さっぱりわからなかったです(笑)。

6月の授業の様子
6月の授業の様子

 

晴れて、国家資格の有資格者が、青山学院中等部に誕生した。
しかも5名も。
さらに、サポーターの一人である岡野さんも合格されたとのことだった。

関先生にもお話を伺った。

 

関先生へのインタビュー

──国家資格合格者輩出、おめでとうございます。
筆記試験は、午前と午後の部があり、午前の部の方が難しかったようです。そういった違いもあり、全員が合格できなくてかわいそうでしたが、実技試験は、冬休みに特訓の時間を設けたので、5人とも余裕で合格できましたね。これに満足せず将来的には強電の王道、「電験」にチャレンジしてほしいと思います。今年の三種合格率は8.3%と難易度は上がりますが、4科目(理論・電力・機械・法規)のうち機械科目は、電気自動車を理解する上で基礎となる「直流機」「誘導機」「同期機」や「パワーエレクトロニクス」が試験項目なので大いに役に立ちます。また、青山キャンパスの受電電圧は、特別高圧の2万ボルトですでその電気設備の保守・監督ができます。今回学んだことをベースに、毎日3時間1年間勉強すれば合格できると思います。

せっかく合格したのに、家の人からは「危ないからうちの電気はいじらないでね」と言われているそうです(笑)。学校の設備は、家庭の一般用電気工作物ではない自家用電気工作物なので触れられません。

──せっかく取得した国家資格を活かせる場が無いですね(笑)。生徒たちにはかなり難しい内容だったと思いますが。
2年生では、ジュールの法則やオームの法則、3年生で平方根を学んでいます。そこに高校の物理や虚数も入ってくる世界なので、かなり難しいと思います。また、「交流」という電気は、有効電力、無効電力、皮相電力といった3種類の電力があり、力率などが変わってくるので、難易度が高いものです。また、電気の法律に関する数値を覚えるのは大変だったと思います。しかし、筆記試験の後半にある複線図、器具の名称などは比較的覚えれば難易度は低く毎年同じような問題がでますのでそこが学習のポイントとなります。

──昨年8月の電気自動車コンテストの時、先生は非常に根気強く、生徒を見守っていらっしゃいました。近くで見ていましたが、コンテストの途中から、生徒たちが急にやる気が入ったように感じました。
コンテストでは、車検が2度も通らず、焦ってしまいましたが、その状況下、生徒たちはみんなで工夫し改良して、ぼくが指示しなくても身体や頭が動くようになっていきました。
失敗してもその原因や改善方法を自分たちで気づくことで、成長していくものです。ぼくが細かく指摘や指示をしたり、全てをお膳立てするのでは、人間としての成長はありません。
また、コンテストで賞をもらったことで、生徒同士が打ち解けるようになりました。
それからは成長が早かったですね。
3学期は毎授業、文化祭のようでした(笑)。

 

コンテスト表彰状
教室の外の壁に貼りだされていたコンテスト表彰状

 

──来年度も開講されるのですか。
来年度は、男子6名、女子6名で、再び挑戦します。
モーターの巻き線仕様変更、ギア比、プログラミングによるベクトル制御、ブレーキを二つにして安全性をもっと高めるなど、進化させたいですね。
来年度も国家資格所得を目指すかどうかは、いま悩んでいるところです。
とりあえずオリジナルの筆記、実技の授業動画40本はコースパワーに残してあります。
積み重ねた経験が、次につながっていきます。来年がまた楽しみです。

関先生が最後に語ってくださった「1年間でしたが、子どもたちと共に活動できてよかったです」という言葉に、先生の万感の想いが伝わってきた。
きっともっと長い間、みんなと走り続けたかったのだろう、と。

 

絆で結ばれた仲間との最後の時間

そしてこの日の耐久レース。
6時限目終了のチャイムが鳴っても、まだ電気自動車の電気は残っており、生徒たちはやめる気配もなく、交代で走り続けていた。
いつのまにか、中等部事務職員の小菅さんやサポーターの岡野さんも仲間に加わっている。全員集合だ。
上野亮中等部部長までもが見学に。

上野部長も
上野部長(左)と関先生(右)

 

合格した生徒もしなかった生徒も関係なく、次に搭乗する仲間のプロテクターの装着を和気あいあいと助け合い、ルール通りに走行していく。苦労を分かち合い、共に歩んできた仲間たちと楽しんでいる。
なぜ2時間も飽きもせずに、いや、みんなとの最後の時間を終わらせたくないのだろう、別れのときを先延ばしにしたいがごとく、走り続けているのだろう。

 

耐久レース1
耐久レース2

 

ついに終わりのときが来た。

通称“青山ベース”で記念撮影。

 

青山ベースの様子
“青山ベース”内のフレンチクリートで整理整頓された工具類
使いこなせる工具が増えていったそうだ

 

“青山ベース”で記念撮影
“青山ベース”で記念撮影

 

授業後、教室を後にする生徒から「1年間、ありがとうございました!」という大きな声が聞こえてきた。

ものづくりの大変さや楽しさを実体験で身につけ、コンテストに挑み、国家試験を受験。
この先、それぞれ違う道へと歩んでいくことになるだろうが、この1年間の経験は、きっと大人になってからも忘れられないシーンとして思い出されることだろう。
生徒同士、そして先生と生徒の絆が結ばれたこの授業を取材できたことがうれしく、関わった皆さんに感謝したい。

 

授業レポート(文・photo/茂)