説明しよう!
放課後819(ハチイチキュー)倶楽部とは——
俳句を1から楽しく学ぶことをコンセプトに立ち上がったwebサイト上の倶楽部である。
紹介しよう!
倶楽部員は2人。
顧問は青山学院中等部の国語科教諭、林謙二先生。
第9回の倶楽部活動の様子をここに報告しよう。
(なお、倶楽部活動はリアルと仮想の両方で行われる。)
季語部屋へGo!
林先生
放課後819倶楽部第9回の倶楽部活動を始めます。突然だけど、これから季語部屋へ行く
さとは
きごべや?
説明しよう!
季語部屋とは、俳句の季語を集めた部屋のことである。
俳人の櫂未知子(かい みちこ)先生が管理していて、都内某所にあることまではわかっているが、
集められている季語とはなんなのか、どんな季語があるのか等、すべてが謎に包まれている。
林先生
櫂先生は青山学院内で行われる俳句コンテスト「青山俳壇」の選考委員でもあられるんだ。そして季語部屋を訪れるのは、わたしも今回が初めてなんだ
さとは
すごい! 楽しみ!!
はんな
あの~
林先生
どうした
はんな
道はこちらで正しいのでしょうか
林先生
はっ!
方向音痴が多いため道に迷いながらも遂に、放課後819倶楽部の面々は季語部屋へとたどり着いた。
林先生
よっ、ようやく着いた。でも帰りは間違いないから。ここまで来ればもう大丈夫。帰りは安心しなさい
さとは
はい
櫂先生
ようこそいらっしゃいました
林先生
はっ、櫂先生。ご無沙汰しております
櫂先生
こんにちは、林先生。生徒さんお2人とは、はじめてお会いしますね。はじめまして、櫂未知子です
櫂 未知子先生
当代一の俳人の一人にして、季語が息づく部屋を管理されている。青山学院大学文学部日本文学科卒業、同大学院修了。第一句集『貴族』で中新田俳句大賞、『季語の底力』で俳人協会評論新人賞、第三句集『カムイ』で俳人協会賞、小野市詩歌文学賞を受賞。著書に『第一句集を語る』(共著)などがある。同人誌「群青」共同代表。公益社団法人俳人協会理事。
さとは
はじめまして、さとはです
はんな
はんなです。よろしくお願いいたします
櫂先生
よろしくお願いします。さっ、外は寒かったでしょう? どうぞお入りください
はんな
お邪魔します
林先生
すごい、ここが季語部屋かぁ
櫂先生
ええ。季語を集めていると言うと、季語って集められるんですか? って聞かれるけど、季語には大きく分けて2種類あるの。例えば春霞(はるがすみ)とか初雪、祭り、といった天候や行事を表す、いわゆる抽象的な季語。そして桜餅や羽子板など、実際に物が存在する具体的な季語がある。わたしは具体的な季語、つまりそれぞれの季節を表す、季語になる物を集めています。ちなみに皆さん驚かれていますけど、ここにある物は、これでも一部なんですよ
林先生
いっ、一部なんですか
春の季語~雛
さとは
あっ、これ可愛い!
櫂先生
どれどれ? あ~それ(上の写真)ね。それは流し雛(びな)
さとは
流し雛?
櫂先生
雛人形というのはもともと海や川に流すものだったのよ。流す前に身体を撫でてから川に流す。穢(けが)れを移すためだったんでしょうね。形代(かたしろ)ってあるでしょ? あれと原理は同じです
さとは
形代ってなんですか?
櫂先生
人の形をした白い薄い紙で、よく神社にあるの。身代わりになってくれるものですね。身体を撫でて海や川に流すと、悪いところをとってくれるの。今は人型の形代のほかに交通安全を願うための自動車や自転車の形代もあるのよ
櫂先生
昔は雛人形も形代のように海や川に流したの。現代の家庭で飾っているような立派な雛人形は、以前はなかった。今のように飾り雛となったのは江戸時代なんだそうです。ちなみに雛人形や雛祭りはもちろん春の季語です
ペーパークラフトをされている方が和紙で作られた雛人形。左が和紙で出来た人形、右が並べ方図
櫂先生のコレクションより
雛(人形)
3月3日の雛祭に合わせて飾られる紙や土などでできた、衣装を着た人形のこと。平安時代には立ち雛であったが、室町時代にすわり雛となり、近世中期(江戸時代)以後に今日のような雛人形が作られるようになったとされる。
春の季語~鳥の巣
櫂先生
次は非常に貴重なものです。なぜなら自分では作れないものだから。これ(下の写真)はある大学生が見つけてきてくれたんです
さとは
これ何ですか?
櫂先生
これはですね、鳥の巣です
林先生
確かに自分では作れないですね
櫂先生
山の中で見つけたそうです。もう巣立ってしまった後のものなんですが、これがよく鳥の巣だってわかったなと思って
はんな
まだ少し羽毛がついてますね
櫂先生
そうね、羽毛がいくつか残っています。千葉の山から大事に持ってきてくれたの。鳥の巣の季語は春ですね
鳥の巣
鳥が卵を抱き、雛を育てるための巣。芽吹き前の樹上に作ることが多い。カラスなどの大きな鳥の巣は人目に触れやすい
春の季語~巣箱
櫂先生
同じく春の季語で、鳥関係のもののひとつに巣箱があります。巣箱もやっぱり春の季語です。この巣箱(下の写真)が斜めになっているのは、木に括りつけるため。最初から斜めに作ってるんだそうです。少し前かがみになってるでしょ?
櫂先生
鳥はこの穴から出入りするんだけど……
さとは
ちっちゃい~
櫂先生
小さいよね。出入口がすごく小さいの。これは27ミリメートルで、この大きさがベストだそうです。この大きさの穴だと天敵である蛇は入ってこない。それが重要なんです。巣箱は大正時代に流行って、それから季語になったそうです。その時代は、木を植えよう、鳥が来るような森にしようという運動があって、それで巣箱も設置されたようです
巣箱
主に野生の小鳥の繁殖を助けるために樹木に取りつける人工の巣のこと。鳥の種類によって大きさが異なる。季語になったのは大正時代で、その時代に植樹運動が行われていたことに由来する
春の季語~風車(かざぐるま)
櫂先生
これ(下の写真)は風車
はんな
季節は……
櫂先生
春。春の季語です。そして、これ(下の写真左)も実は風車なんですね
櫂先生
この風車は福島県の会津若松の縁起物なんだそうで、地元の方が送ってくださいました。大変ありがたいことです。テレビ番組で紹介するときは必ずこの風車を使っていますね
風車(かざぐるま)
紙やセルロイドなどに切り込みを入れて車輪形を作り、風の力でくるくると回すおもちゃ。1年中手に入るものだが、昔は春になると風車売が風車を売り歩いたことから、季節は春
春の季語~シャボン玉
櫂先生
もう中学生になったらシャボン玉では遊ばないかな
さとは
はい……あの、シャボン玉の季節はいつなんですか?
櫂先生
春ですね。シャボン玉は外で遊ぶ。外に出て遊びたくなる時期というと春なので。春の季語になります
シャボン玉
石鹸水をストローの先端につけて、反対側から息を吹いてふくらませて飛ばす。漢字では「石鹸玉」と書く
春の季語~風船
櫂先生
引き続き春の季語をご紹介しましょうか。そこ(下の写真)にあるのが紙風船(写真上)とゴム風船(写真下)ね
はんな
風船も春の季語なんですか?
櫂先生
はい。風船も春です
はんな
遊び道具って春が多いんですね
櫂先生
そうですね。「屋外に出る喜び」っていうのが理由だと思います。ゴム風船は、ヘリウムを入れて持ち歩くもの。紙風船は主に家の中で、自分で突いて遊ぶものですが
櫂先生
屋内で遊ぶものと、外へ持ち歩くものと、それぞれ目的は違いますが、どちらも同じ春の季語です。紙風船(下の写真)もいろいろ集めたんですよ。富山の薬売りから薬を買って、風船をもらうとか。高い頭痛薬だったわ(笑)
風船
もともとは紙を貼り合わせた紙風船を指していたが、現代ではゴム風船なども指す。季節はどちらも春になる
櫂先生
春の季語はこれくらいにして、夏の季語にいきましょうか
はんな
はい、よろしくお願いいたします
【季語部屋歳時記 夏編へ続く】
※季語部屋歳時記 夏編は、2023年夏に公開予定です