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放課後819倶楽部【第11回】句会編!

説明しよう!

放課後819(ハチイチキュー)倶楽部とは——
俳句を1から楽しく学ぶことをコンセプトに立ち上がったwebサイト上の倶楽部である。

紹介しよう!

倶楽部員は2人。

顧問は青山学院中等部の国語科教諭、林謙二先生。
第11回の倶楽部活動の様子をここに報告しよう。
(なお、倶楽部活動はリアルと仮想の両方で行われる。)

句会!

林先生 放課後819倶楽部の第11回目の活動を行います。今回は、前回の吟行で詠んだ句をもとに句会を行います。引き続き片山由美子先生にお越しいただいております。また広報部からも2人参加いただいています

片山先生 どうぞよろしくお願いいたします

広報部の湘(しょう)と申します、よろしくお願いします

同じく広報部の聖(ひじり)です。よろしくお願いします

林先生 (プリントを配布しながら)それでは早速句会を始めましょう。皆さんには、吟行終了後に1句投句してもらいましたが、それをまとめたものがこちらです

句会

 

林先生 自分の句以外の2句を選んでください。以前の句会でも言ったとおり、こういう句を選ばなくてはいけないとか、そういうルールはありません。「ああ、わかるわかる」と共感できる句でも、「おもしろいな」と思った句でもいいです。とにかく2句、いいなと思った句を選んでください
819倶楽部
林先生 そろそろ選べましたか? では、選んだ2句を読み上げていただきましょう

片山先生 そうですね。普段の句会では点が入ったら作者が名乗る場合もあるけれど、今日は名乗りはなしで、一番最後に誰の句かを明かすということにして、「○○(自分の名前)選。○番」と言ったあとにその句を読み上げるというふうにしていきましょう

林先生 はい。それでは、順番に……聖さんから

聖選。3番。冬晴れの空を浮かべて水たまり 同じく聖選。5番。園庭にポインセチアの灯がともる

湘選。1番。陽を浴びて綿着る冬芽みどりさす 2番。お揃いの襟巻をして下校の子

さとは さとは選。2番。お揃いの襟巻をして下校の子 3番。冬晴れの空を浮かべて水たまり

はんな はんな選。4番。山茶花へ二色両手に散歩道 6番。出番まえ資料ととのえ聖樹見る

林先生 林謙二選。1番。陽を浴びて綿着る冬芽みどりさす 3番。冬晴れの空を浮かべて水たまり

片山先生 片山由美子選。2番。お揃ひの襟巻をして下校の子 5番。園庭にポインセチアの灯がともる 以上です

わたしがこの句を推す理由!

林先生 では1句ずつそれぞれコメントをいただければと思います。まず、1番

陽を浴びて綿着る冬芽みどりさす

 

林先生 1番を取った方。湘さん、どこが良かったかコメントをお願いします

冬芽が綿を着ているという表現がとても愛らしい句だと思い選びました

819倶楽部

 

林先生 私も1番を選びました。冬芽で、最後「みどりさす」という下五のところで生命が息づいているというのが見えた部分、それから「陽を浴びて」というとても明るい、暖かな雰囲気が出ているのがいいなと思って選びました。片山先生、いかがでしょうか

片山先生 これは2点句(選んだ人が2人おり、点数が2点入った句)でしたね。着眼点はとてもいいと思いました。小さな冬芽がもう準備をしているように見えたというところはいいんですが、「みどりさす」という言葉が、実は夏の季語なんです。初夏の「新緑」の言い換えなんですね。それを避けるために

陽を浴びて綿着る冬芽に早みどり

 

片山先生 というふうにしてみたらいかがでしょうか。「みどりさす」を取ることで、他の季語との重なりがなくなります。ちょっと字余りになりますが「冬芽に」というのを入れてもいいかもしれないですね。いい句だと思います
819倶楽部

 

林先生 ありがとうございます。では続いて2番

お揃ひの襟巻をして下校の子

 

林先生 さとはさんと湘さん、いかがでしょうか

さとは 寒いけど、寒さに負けないぐらいの明るい笑顔で、2人で仲良く一緒に帰っている画が元気で微笑ましいなと思いました

819倶楽部

 

同じく襟巻をして子どもたちが下校するという冬らしい光景が目に浮かぶのと、その襟巻がお揃いだというところが可愛い句だなと感じました

林先生 片山先生はいかがですか

片山先生 私もとってもいいと思いました。キャンパスをいろんな年代の人たちが歩いていたのですけれど、大学生は大体一人で歩いている人が多かったですよね。連れ立っているのは初等部生ばかりだったみたいで、みんなワイワイ言いながら歩いていました。お揃いの襟巻をしてるというところが本当に楽しそうで明るさを感じさせて、非常にいい句だと思います

819倶楽部

 

林先生 では続いて3番

冬晴の空を浮かべて水たまり

 

林先生 これも三点句ですね。選んだ方……聖さんとさとはさん
読んだときに青空が水に映っている様子が絵画的でいいなというふうに思いました。目に映るようでとてもいい句だと思って選びました
819倶楽部

 

さとは 水たまりに青空が映っているってことで下を向いているから少し寂しい句なのかなと思ったけど、その寂しさが冬の雰囲気を表していていい句だなと思いました
林先生 この句は私も選びました。今日は本当に冬晴れの空で、それを使って何か詠みたいなと思ったんですが、なかなか浮かばなくて、水たまりに冬晴れの空が映っているっていうのはすごい発見だなと思いました。私もこういう句が作りたいという思いで選びました。片山先生はいかがでしょうか?
片山先生 本当は空は水たまりに「映っている」のですよね。そこを「映して」とせずに「浮かべて」とした。言葉の選び方ですね
819倶楽部

 

林先生 なるほど、ありがとうございます。では、4番にうつりましょう

山茶花へ二色両手に散歩道

 

林先生 選んだ、はんなさん

はんな 普段している散歩だけど、山茶花が赤と白で鮮やかな感じが出ていて、すごく好きです。情景がすぐ浮かんだので選びました

819倶楽部

 

片山先生 この句はちょっとわかりにくいかなと思いました。「両手に」という表現から、落ちている山茶花の花びらを拾って両手に持って歩いてるところを詠んでいるのでしょうけれど、少し言葉が多い印象です。「山茶花へ」というと、山茶花ではなくて他のもの(を指している)という感じもしてしまいますので、わかりやすくするために

山茶花の紅白を手に散歩道

 

片山先生 と、してみたらもう少しわかりやすくなるかなと思います。例えば右手には赤、左手には白の花を持って歩いている。そういう状況が目に浮かびますよね。二色の山茶花と言えば、紅白だとわかるので、それをむしろ言った方がいいと思うんです。その方が絵画的な印象が強まりますので

林先生 なるほど。今の片山先生の直した句を聞いて、光景がわかりました

片山先生 「(山茶花)へ」という、この助詞「へ」がわかりにくくなってしまう原因です。俳句は短い分、「て・に・を・は」、つまり助詞がすごく大事になります。助詞をどう使うかを工夫してみるといいと思います

819倶楽部

 

林先生 なるほど。では続いて5番

園庭にポインセチアの灯がともる

 

林先生 これも三点句ですね。選んだ方……聖さん

実際にキャンパス内を見てきて、ポインセチアの鉢植えを見かけることが多くて、ポインセチアで何か詠みたいと思ったんですが詠めませんでした。これを見たときにすごく上手いなと思って選びました

819倶楽部

 

片山先生 はい。私もいただきました。赤いポインセチアを灯(ともしび)のようだと見たところがいいと思います。「ポインセチアの灯」というふうに、これは比喩的な言い方になりますけれど、それがとても生きていると思います。「ごとき」などを使わず、断定したほうがいい。つまり「灯のごときポインセチア」ではなく「ポインセチアの灯」と断定したことで逆に印象が強まりますので、この表現がいいと思います
819倶楽部

 

林先生 俳句の中で比喩表現を使うのは難しいですよね。ありきたりになってしまうこともありますし。この句はそういう意味でよくできていますね。では最後、6番

出番まえ資料ととのえ聖樹見る

 

はんな 「出番まえ」ということでたぶん緊張してるのかなと思うんですけど、その中でどっしりと構えているクリスマスツリー、聖樹を見て心落ち着かせているというのが想像できたので選びました
819倶楽部

 

片山先生 林先生はどういうふうに見ましたか?
林先生 この句を私は上手く読み取れませんでした。何かの出番があるんでしょうけど、窓越しにクリスマスツリーを見ていたのかなというのは読み取れたんですけど……。うーん、すみません。ちょっとよく解釈ができなかったです
片山先生 これからどこかへ出て行く前に、「もうこれでよし」という気持ちで最後に窓の外の聖樹を見ているというような感じだと思うんですけど。俳句の場合、「見る」というのは言わなくていいことが多いんです。例えば聖樹の場合には「見る」よりは、「仰ぐ」とか、そういった言葉の方が効果的だと思います。今の時期、青山キャンパスの外には聖樹があるので、「聖樹」が出てきたんだと思うんですけど、「出番まえ資料ととのえ」という部分を生かすには「聖樹」じゃない方がいいかもしれません
林先生 「聖樹」じゃない方がいいというと
片山先生 上五、中七ができて、それを生かすような季語は何かというのを考えて作るという句の作り方があります。あるいは最初に季語がもうあるというパターン、例えば2番のお揃いの襟巻をしているという句は「襟巻」という季語がもう先にあって「襟巻」(という季語)から全体を一句にまとめているわけです。ところが、6番のパターンでは「出番まえ資料ととのえ」というのと「聖樹見る」というのはちょっと別のことなんですね。取り合わせの句というのがありますけれども、そのときに何を見たらいいかとか、どういう季語を合わせたら内容が一番生きるかを考えたときに、心理的なものを言うには「聖樹」ではなく、緊張感とかそういうものを伝える季語を持ってきた方が、心理が伝わると思うんです。いろいろ(季語は)ありますけれど、何がいいですかね。「冬うらら」だとちょっとのんきな感じになっちゃうかしら。何か緊張感のあるもの……

林先生 緊張感が伝わる季語か……

片山先生 季語には「ものの季語」と「ものじゃない季語」があります。例えば「聖樹」とか「みかん」とか、「ポインセチア」とか具体的な「もの」を表す季語と、「冬晴れ」とか「冬の午後」とか、実体がなく、目に見えない、つまり「もの」ではない季語がある。この句の場合には、「ものの季語」ではなく「ものじゃない季語」の方がいいかなと思います。例えば「十二月」に変えて

出番前資料ととのえ十二月

 

片山先生 としてもいいですね。歳時記にはいろいろな分類があり、時候、天文、生活、行事、動物、植物というふうに分かれています。今回の句では、時候、天文とかそのあたりの季語の方がまとまるかなと思います

林先生 確かに今先生がおっしゃっていた「十二月」の句、いいですね。いろいろ押し迫っているという、そういうニュアンスもさらに加わります

片山先生 押し迫っているんだけれども、でももう大丈夫、という心理状態を表すというもっていき方もあるので、推敲する段階で、あれはどうかな、これはどうかなといろいろな季語を並べてみて、一番いいかなという季語に決める。そういう推敲の方法もあります

819倶楽部

 

林先生 はい。ありがとうございました。では、作者を明かしていきましょうか

名乗り名乗ればなにぬねの

片山先生 それではみなさん、自分の句に名前を書き込んでください
名乗り!
  • 陽を浴びて綿着る冬芽にみどりさす(はんな)
  • お揃ひの襟巻をして下校の子(林謙二)
  • 冬晴の空を浮かべて水たまり(片山由美子)
  • 山茶花へ二色両手に散歩道(さとは)
  • 園庭にポインセチアの灯がともる(湘)
  • 出番まえ資料ととのえ聖樹見る(聖)

片山先生 ちょっと待って。聖さんが句で詠んでいたのは句会のご準備のことだったのね

林先生 そういうことですね(笑)

片山先生

片山 由美子先生 

当代一の俳人の一人。1999年4月から2009年3月まで青山学院女子短期大学国文学科非常勤講師。2019年『香雨』を創刊、主宰となる。2018年より「毎日俳壇」選者。1990年に俳句研究賞、2007年に俳人協会評論賞、2013年に俳人協会賞を受賞。句集に『飛英』ほか6冊。評論集、対談集、入門書など著書多数。公益社団法人俳人協会副会長。

 

【次回へ続く】