Variety いろいろ

放課後819倶楽部【第15回】バレ大!

説明しよう!

放課後819(ハチイチキュー)倶楽部とは——
俳句を1から楽しく学ぶことをコンセプトに立ち上がったwebサイト上の倶楽部である。

紹介しよう!

倶楽部員は2人。

顧問は青山学院中等部の国語科教諭、林謙二先生。
第15回の倶楽部活動の様子をここに報告しよう。
(なお、倶楽部活動はリアルと仮想の両方で行われる。)

バレ大!

林先生 放課後819倶楽部第15回の倶楽部活動を始めます。2人とも、今日はバレーボールの句を持ってきていると思うけど、その前に、バレーボール大会、通称バレ大は、どうだった?
はんな 当日は残念ながら雨だったのですが、そんな暗い天気を吹き飛ばすほど盛り上がって楽しかったです
さとは わたしは得点板係だったから、他クラス同士の試合も客観的に観られて楽しかったな。試合の回数を重ねる度にクラス全体が一致団結していくのがよく分かったし……

 

はんな どこのクラスも試合が始まる前に円陣を組んで「うおー!」と声を上げていて。それがみんな大迫力だったよね
さとは そうそう。最後の試合の時なんか1試合目とは比較にならないほど、出場している人も応援している人も盛り上がってた

 

林先生 そんなバレーボールを実際に競技として行った2人なら、きっと実体験を活かしたよい句が生まれたはずだ

さとは ハードル上げないでください

林先生 じゃあ詠んでもらおう。まずは、はんなさんから

五月雨や窓辺の隅のバレーボール

──はんな

 

林先生 なるほど。雨の日が多かったことが如実にうかがえる句だね。当時はかなり雨続きだったけど、大会当日までの練習ってできたの?
はんな はい。みんなで円形に並んでパスを繋ぐ練習をしました。ものすごく長く続いたときはクラス全体で盛り上がって。それが楽しかったです

 

さとは わたしのクラスも! 最初は輪になってラリーをして。その後は試合形式の練習をしました。今が本番なのかと思うほど白熱してた。昼休みにバレーボールの練習があるときは、みんなで急いでお昼を食べて急いでグラウンドに向かう。それだけでとても楽しかったです!! 
林先生 なるほど。例年同様、バレ大に向けて気合を入れて練習できていたか。
それじゃあ改めて、さとはさん、はんなさんのこの句をどう鑑賞した?

五月雨や窓辺の隅のバレーボール

──はんな

 

さとは バレーボールが窓辺にぽつんと置かれていて雨がしとしとと降り、誰もいない教室の様子が浮かびました

 

さとは 練習をしたいのに梅雨で天気が悪いためにできず、暗い気分が曇りの天気に重なってさらに残念な気持ちになってしまったという雰囲気を感じました。このバレーボールを使っている人達のバレ大にかける情熱が伝わったような気がしました
林先生 そうだね、五月雨は梅雨のこと。梅雨の少し鬱々とした雰囲気や「窓辺の隅」という場所からもさびしさが伝わってくる。ふだんはにぎやかな教室なのに、今は誰もいない、という対比も感じられる。じゃあ続いてさとはさん、句を詠んで

夏至の昼日に重なったバレーボール

──さとは

 

林先生 こちらは「夏至の昼」から、ギラギラとした暑さが感じられる。それが「重なった」のは真夏の暑さと生徒たちのバレーボールに向けられた情熱だね。真剣に練習している、その一場面を切り取っているね。はんなさんはこの句をどう鑑賞した?
はんな きっと外でバレーの練習をしていて、上がったボールを取るためにボールを追って上を向いてそれがとても眩しかったというシーンだと読み取りました。夏至の日の昼の太陽にかぶるくらいなのでとても高く上がったんだろうなと思います

 

林先生 太陽は私達の原動力、いのちの源だ。夏至の太陽に照らされ、元気いっぱいの生徒達の姿が想像できる。それでは、最後に私の句を

夏空へトスまつすぐに上がりけり

──林 謙二

 

林先生 この句をどう鑑賞した?
さとは 暑い日にバレーボールが高く上がりその場の観戦している人達の気持ちも盛り上がっていく様子が浮かびました。そして、トスがまっすぐに上がったあとは相手コートに攻撃をしようと選手達が気持ちを高めているのではないかと思いました

 

さとは その場にいる全員が一致団結して勝利のために頑張っている様子が伝わってきました
林先生 はんなさんはどう鑑賞した?
はんな 外でバレーをしているシーンだと思いますが、さとはちゃんの句「夏至の昼日に重なったバレーボール」とは違ってこの視点の人はボールを追っているわけではないように読み取り、コート脇で応援している人の目線なのかなと思いました

 

はんな またまっすぐに上がっているので、なんとなくパワフルだったり元気で明るいように感じました
林先生 「トス」はアタックを打たせるもの。つまり、アシストだ。選手が1つになって、勝利をつかみ取ろうとしている。また、「まつすぐに」は勝利に向かっている気持ちの表れでもある。2人とも、それぞれいい鑑賞ができているね。句を作るだけでなく、書かれていないことまでよく想像できている。バレ大を経験しただけのことはあるな。そう言えば、バレ大の結果はどうだった

はんな わたしのクラスの結果は、女子は2勝2敗でリーグ(4クラスで1リーグ)で2位、男子は3勝1敗でリーグ優勝しました。すごく嬉しいです

さとは わたしのクラスのゲーム結果は、女子は2勝2敗、男子は1勝3敗でした。たくさん勝てた訳ではないからこそ、勝った時は嬉しかったです

林先生 勝つと、やはり嬉しいものだ。そんな嬉しさを詠んだ句がある

晩春やハンドボール部初勝利

──謙二

 

はんな あの、、、この謙二というのは、
林先生 さすがに鋭いな、先生の事だ

さとは 先生が詠んだ句か。晩春ってなんですか

林先生 晩春というのは春の遅い時期のこと。だから今の暦で言うと4月後半ぐらいかな。あ、そうだ。5月6日に立夏を迎えたから、今は

はんな 夏ですね

林先生 そう夏です。晩春は終わったね。晩春というとやっぱりゴールデンウィーク前ぐらいかな。ハンドボール部が、晩春、春の終わりかけに初勝利ってわざわざ書いているということは、ようやく勝てたっ、というそんな感じを詠んだ

 

林先生 バレ大でも勝てると嬉しかったでしょ?

はんな はい。クラスの親密度や一体感が高くなったなと思います。試合を通して交流のなかった人の名前を覚えて声を掛け合ったり、試合に勝った時に誰彼構わずハイタッチをしたり出来たので、とても楽しくて良い機会になりました

林先生 競技に参加しなくても、応援でも盛り上がるもんだ。ところで、そんな応援を詠んだ句もある

嗄(か)れ声の笑ひ運動会の夜

──謙二

 

さとは あれっ、また謙二って書いてある

林先生 そうです、わたしが詠みました。で、どんなイメージがわく?

さとは なんか、応援しすぎて声が出なくなっちゃって、よく頑張ったな~はははって笑う声が嗄れてる、みたいな……

 

林先生 そうそう! 運動会で、お父さんやお母さん、家族みんなが応援に来た。その日の夜、家に帰って、ああだったね、こうだったねってみんなで話している。そのときに笑い声がするんだけど、でもみんな運動会で大きな声で応援した後だから、笑い声がなんとなくかすれているようだっていうのを詠んだ
はんな なるほど
林先生 みんなで応援したり、笑い合ったりというのは共通の思い出になるし、いいもんだ。共通といえば、バレ大では、やはりTシャツとか作った?
さとは はい。当日はみんなでクラスTシャツを着ました。普段は制服を着ている人がほとんどですが、高等部に来て初めてのイレギュラーな雰囲気だったのでとても不思議な気分でした

 

林先生 そうか……やはり揃いのTシャツを作ったか。揃いといえば、ユニフォームや道着もそうだ。道着といえば、道着を詠んだこんな句がある

蝉しぐれ道着並べて干されけり

──謙二

 

さとは あ~、また謙二って書いてある

はんな 今回の流れはちょっと強引だったような……

林先生 そうです、わたしが詠みました。で、どんなイメージがわく? 時間帯はどう思う?

さとは 夕方?
林先生 夕方。うん。ちなみに柔道着と剣道着、どっちのイメージ?
はんな 剣道着のイメージです

 

さとは 私は柔道着かな?

 

林先生 お~なるほどね。この句はね、俳人協会の先生たちと一緒に東京都内を吟行したんだけど、そのときに
東大の本郷キャンパスで、夜吟行したんだ
はんな ええ! 夜!?
林先生 そう、夜。東京大学で。ちなみにその日の夕飯は東大の学食で食べたんだけど。そのときにちょうど剣道だったか柔道だったかわからないんだけど、道場の横を通ったらちょうど道着が干されてて

 

林先生 だから実は蝉は鳴いてなかったんだ、夜だったからね。でも夕方のイメージで作って詠んでみた句だ。これはね、その吟行句会のときに先生たちから点数がちょっと入った句なんだ(笑)
さとは 先生、うれしそう(笑)
林先生 ゴホン(咳払い)、ところで君たち、バレ大では……
はんな あのー先生、さっきから何のノートを見ているのですか?
林先生 句帳だ。実は昔からずっと書き溜めている句帳がすでに6冊とか7冊ある

 

さとは へぇーすごい!
はんな ここに載ってる句は全部先生が作られたんですか?
林先生 そうです
はんな すごい! もしスポーツに関する句があれば、ぜひ聞かせてください
さとは お願いします
林先生 そうか、そこまで言うなら

林先生の句に学ぶ

林先生 (句帳をペラペラめくりつつ)こうして見直してみると大した句がないな~。まあ、まずは季語になっている運動会にまつわる句から

声からす教師もゐたり運動会

──謙二

 

林先生 ちょっとありがち……だけど、2人ともクスクス笑っているということは、誰か先生が思い浮かんだからか? さて、次の句

綱引きは白に軍配秋高し

──謙二

 

林先生 これは綱引きが季語になっていないから、季語として「秋高し」をつけた句だ。「秋高し」とは秋の空は空気が澄み、高く感じるという意味だ

 

林先生 つづいて、身近なスポーツから

秋桜(コスモス)やラジオ体操第二まで

──謙二

 

林先生 ところでラジオ体操第2って、知ってる?

はんな ずっと前にやったけど、もう忘れちゃいました

さとは こういうやつ!(やってみせる)

 

ラジオ体操第2の特徴的な動き(※イメージ)

 

林先生 そうそう。わたしの家の近くの公園では朝の6時半からご高齢の方々がラジオ体操をしているんだ。で、そこを通りがかって見ていたら、ラジオ体操第2までやってるんだな~と思ったという句。それでラジオ体操が季語ではないから秋桜を使って秋の句にしたてた。おやっ、他にも体操系の句があるな……

風光る芝生の上のヨガ体操

──謙二

 

夏芝や片足立ちの太極拳

──謙二

 

林先生 ヨガも太極拳も季語ではない。最初の句は、「風光る」が春の季語。次の句は「夏芝」が夏の季語になっているんだ。これらの句はこの前、新宿御苑に吟行で行ったときに作ったんだ
はんな 新宿御苑で太極拳をやっていたんですか?
林先生 新宿御苑には非常に広い芝生があって、みんな思い思いにいろんなことしているんだけど、そのなかであるグループが太極拳とかヨガとかをやっていた。そんな光景を詠んだ句だ。あと他に……ややっ、春の季語を詠んだ句があるな

春の雲シュートわづかにずれにけり

──謙二

 

林先生 これは何だかわかるよね?

はんな サッカーですよね

林先生 次の句は私の想像で作りました。なんかこういうシーン過去に見たことあるな~っと思いながら

ワンナウト二塁三塁花曇(はなぐもり)

──謙二

 

林先生 「花曇」ってわかる?

はんな わかります

さとは 桜が咲いているんだけれども、天気がよくなくて、どちらかというとどんより曇っている感じ

林先生 そう。だから気持ちがそんなによくない。うつうつとしたような感じがある。そして、カウントは「ワンナウト二三塁」。この「ワンナウト二三塁」っていうのはどちらかというと自分は守る側の、守備についている側で、相手が攻撃中

 

林先生 ああ、点数が入っちゃうかもしれないな、まだワンナウトだし、という状態。ちょっと不安な心境っていうのかな。それを表している。さて、次は

万愚節(ばんぐせつ)ゲレンデの雨大粒に

──謙二

 

はんな 万愚節……?
林先生 万愚節。それが季語。一体なんでしょう。ちなみに万愚はみんな愚かだねって意味

はんな ええ?

さとは ん~

林先生 これはちょっとわかんないかな?

はんな う~ん、エイプリルフール?

林先生 正解! 「エイプリルフール」は「エイプリルフール」でも季語になるし、「四月馬鹿」でも季語になります

さとは はんなちゃん、すごい!

林先生 その「エイプリルフール」のちょっと格好つけた言い方が「万愚節」。「ゲレンデの雨大粒に」というのはもう見たまま。4月1日にスキーに行ったんだけれども、ゲレンデが大雨だ、これじゃ滑れないよっていうそういう状況と、「万愚節」っていう、こんな時期にはもうダメだよっていう自分のなかでの後悔みたいなものを詠んだ句

 

ゲレンデに降る大粒の雨(※イメージ)

 

林先生 後悔というのではないけど、ちょっと悔しいような寂しいような残念な気持ちを詠んだのがこの句

夏風邪の子に合宿の広き部屋

──謙二

 

林先生 合宿に来たはいいけれど、ちょっと熱が出てしまって、先生から休んでなさいと言われて一人で部屋でぽつんと寝ているっていう、そんなイメージ

さとは 合宿か、熱出して寝てるのは嫌だけど。でもいいなあ、合宿

林先生 そうかあ、ずっとコロナ禍だったからな。ならば合宿所あるあるとして

昼の蚊の鴨居にひそむ合宿部屋

──謙二

 

林先生 合宿部屋って昼間は誰もいない。昼間はみんな外(グラウンド)に出て活動してるから。そういうときに蚊がすぅ~っと入って来て、鴨居っていうふすまの上のほうのところにひそんで、夜になるまで待ってるっていう。そういう句だ

はんな えぇっ

さとは やだ

林先生 それでは次は、

摺り足の少年力士夜の秋

──謙二

 

林先生 「相撲」は秋の季語だが、「力士」は季語にはならない。だからこの句には「夜の秋」という季語が必要なんだ。ちなみに「夜の秋」はいつの季節かわかる? 授業で教えたよね?
はんな えーっと、秋じゃないっていうのは覚えてるんですけど……
さとは え、覚えてないけど。習った?
林先生 授業で言ったよ

はんな あ~夏?

林先生 そう、夏!

はんな 確かもう夜が涼しくなってきた、みたいな……

さとは あ~そういうこと?

林先生 そう、はんなさんが言った通り。「夜の秋」は夏の季語。夜になって少し涼しくなって、なんだか空気が変わったねという感じ。だからまだ(秋にはなっていなくて)夏なんだ。ちなみに「秋の夜」は秋だけどね

  • 夜の秋:夏の季語。特に夏の終わりに、夜になると少し涼しくなってきた、秋の訪れを感じる。そんな空気感を表わす
  • 秋の夜:秋の季語。夜が長くなる季節、澄み渡る夜の空気などを表わす

 

直接的な言葉を使わない句

林先生 バレーボールの句も詠んだし、これでスポーツの句を自在に詠めるようになったと思う

はんな 先生、質問です。スポーツの句を詠むときに、直接的にスポーツの名前が入っていなくてもよいものですか?

林先生 なかなかいい質問だ。もちろん直接的にスポーツの名前が入っていなくても、そのスポーツがイメージできればオッケーだ。だとえば

名の知らぬ国旗はためく秋の昼

──謙二

 

林先生 これなんかどう? イメージできる

さとは 運動会ですよね。実際にはためいてました、国旗

はんな 確かにイメージできます。幼稚園生のときとか、運動会の準備で自分たちで作ったのに、どこの国かわかってなかったのを思い出しました(笑)
林先生 こんなふうに、スポーツの名前を絶対に入れなきゃいけないというよりも、どちらかというとそのスポーツがイメージできる、そのスポーツを観て作ったんだとわかる句であればよい。それじゃあ、これから夏休みには合宿や旅行でスポーツをする機会も増えると思う。ぜひスポーツの句を詠んで、青山俳壇に挑戦して欲しい。では次回
【次回】第16回 交流戦1 灼熱の吟行編!へ続く