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放課後819倶楽部【第18回】季語部屋歳時記 秋冬・新春編!

説明しよう!

放課後819(ハチイチキュー)倶楽部とは——
俳句を1から楽しく学ぶことをコンセプトに立ち上がったwebサイト上の倶楽部である。

紹介しよう!

倶楽部員は2人。

顧問は青山学院中等部の国語科教諭、林謙二先生。
第18回の倶楽部活動の様子をここに報告しよう。
(なお、倶楽部活動はリアルと仮想の両方で行われる。)

季語部屋にて

説明しよう!
季語部屋とは、俳句の季語を集めた部屋のことであり、俳人の櫂未知子(かいみちこ)先生が管理されている。
季語には大きく分けて2種類――抽象的な季語(秋晴れ、秋風など)と具体的な季語(柿や栗など)があるが、季語部屋には具体的な季語が集められている。
放課後819倶楽部はその季語部屋に特別に入室していた。

林先生 放課後819倶楽部第18回目は季語部屋で行います。櫂先生、よろしくお願いいたします

櫂先生 よろしくお願いいたします

櫂先生

櫂 未知子先生

当代一の俳人の一人にして、季語が息づく部屋を管理されている。青山学院大学文学部日本文学科卒業、同大学院修了。第一句集『貴族』で中新田俳句大賞、『季語の底力』で俳人協会評論新人賞、第三句集『カムイ』で俳人協会賞、小野市詩歌文学賞を受賞。著書に『季語、いただきます』などがある。同人誌「群青」共同代表。公益社団法人俳人協会理事。

 

林先生 まだまだ暑いですが立秋も過ぎ、暦の上では秋になりましたので、櫂先生、秋の季語を教えてください

櫂先生 それでは早速、、、

季語部屋

 

林先生 こっ、これは何ですか? だいぶ重そうですね

秋の季語~砧(きぬた)

櫂先生 これは私の自慢の品で、砧(きぬた)に使う木の槌(つち ※ハンマー)です。下の板みたいなものは本物のまな板ですが、昔は切り株か何かの板とセットで使っていました
季語部屋

 

はんな セットで使うんですか?

櫂先生 そう。木綿がまだ普及していなかった頃のお話です。麻や籐で編んだ硬い布を、この木槌(きづち)で叩いて、柔らかくしていた。だから板と木槌がセットで砧(きぬた)。「きぬいた」の略で「きぬた」というわけです
林先生 なるほどね。世田谷区にある砧公園の「砧」と同じ漢字ですね
櫂先生 「砧」は秋の季語。遠くへ行って帰ってこない夫を思って、恨みがましく振り下ろす。それが大事なんです


さとは こうして叩くことで布が柔らかくなるんですね
櫂先生 そう、柔らかくなるの。一種の冬支度なんですね。硬いものを柔らかくして縫いやすくするっていうのかな。あるいは農家では、これで藁を打っていました。「わらぎぬた」にしたんです。「砧」は秋の夜の寂しさを表すということで、秋の季語になっています。NHK俳句で砧がテーマだった時に、この木槌を手に入れました。ちなみに青森県で使われていたものだそうです。だいぶ欠けているので、よく使い込んでいたんだと思いますし、この重さだから、相当恨んでたんじゃないかしら
砧(きぬた)

木槌と木版(まな板)をセットにしたもので、「きぬいた」が転じて「砧」となった。冬支度の一環として、昔の農家では硬い布を叩いて柔らかくするのに使っていた

 

秋の季語~菊枕(きくまくら)

櫂先生 これ(写真下)も同じく秋の季語です。ちょっと失敗しちゃったんだけど……
季語部屋

 

さとは 櫂先生が作られたんですか?

櫂先生 そうそうそう。外側じゃなくて中身をね。この季語は中身が大事なんです。外側なんてどうでもいいの

さとは えっ、せっかくステキな袋なのに……

櫂先生 さっき「ちょっと失敗しちゃった」って言ったんだけど、何を失敗しちゃったかと言うと、色を失敗したんです。紫色じゃなくて、黄色にすればよかった

季語部屋

 

はんな これは一体何なんでしょうか?
櫂先生 菊です。これはですね、布に干した菊を入れ、普通の枕の上に乗せるんです。そうすると、かすみ目とか頭痛が治まると言われています

はんな ええ~!

櫂先生 もともと菊というのは薬用として輸入されていたの。これは菊枕(きくまくら)というものです。これも売っていないので、自分で手作りしたんです。菊枕を作るには、前年の冬から準備しないとダメなの。夏の間に作るとカビちゃうのよ

はんな そうなんですか!
櫂先生 食用菊を買ってきて、花びらをむしって電子レンジで加熱するか、蒸し器で蒸して、それから魚や野菜を干す「干し網」に広げて、ひたすら陰干しをするんです。夏になって慌てて作り始めてもなかなか乾かない。だから前の冬からやらないとダメなんです。これをNHK俳句で兼題として出したら(※句会などに先立ってテーマ、題をだすこと)とんでもない句がいっぱい集まってきて
さとは と、とんでもない句と言うと……
櫂先生 棺桶の中で使うものだと思ってる句ばっかりでした
季語部屋

 

はんな 菊の花のイメージが先行しちゃうんでしょうね
櫂先生 ちなみにね、菊枕を作るのが面倒だったら、「菊海苔(きくのり)」というのを買ってくるのがおすすめです
はんな 菊海苔ですか?
櫂先生 菊の花びらに一回火を通して板状にしたものね。たたみいわしみたいなイメージ。そういうのが今は売っているので、それで代用してもいいです。あれはもうしっかり干し上がっているから(扱いが楽です)
季語部屋

 

さとは へえ~そんなものあるんだ
櫂先生 菊枕を作るときは、黄色い菊がやっぱりおすすめです
季語部屋

 

林先生 (作りたての)新しいうちは香りもするんですか?
櫂先生 します、します。しっかりと干し上がれば、香りもちゃんとします。これは(古いから)残念ながらもう香りが飛んじゃってますけど。ちなみにこの枕はいただいたショールを裁断して縫って作りました。なかなかこういう枕カバーも売っていないので
はんな ステキです。いい夢が見られそうです
櫂先生 秋はこんなもんですかね。意外と少ないんですよ、秋の季語って
菊枕(きくまくら)

干した菊の花びらを入れて作った枕のことで、香りがよく、頭痛や目のかすみなどに効果があると言われている。日常使いされた薬用の枕で、決して棺桶で使うものではない

 

冬の季語~寒紅

櫂先生 それでは冬の季語を紹介しましょうか。これは、よく京都なんかでお土産として売っているものなんですけど、紅筆や指で水をつけて使うもので、今でいう口紅ですね。(見た目は)黒いものでも、水でといて、つけると赤くなります
季語部屋

 

はんな へえ~
櫂先生 これらはお土産用の安価な物ですが、今から見せるのは本物です
季語部屋

 

さとは わあ!全然違う!

櫂先生 これはベニバナという植物を使っています。ベニバナの紅はものすごく高価なんだそうです。これは撮影用に買ったんですけど、約60回分で15,000円しました

はんな 高級品!

櫂先生 それで、これは寒紅(かんべに)という季語です

さとは 寒紅?

櫂先生 寒い寒い時期、寒中に作った紅は、とてもいいとされていたんですね。寒中の紅だから寒紅です。NHKの『俳句さく咲く!』では、タレントの桜井紗季ちゃんに試しにつけてもらいました。とてもきれいな色でしたよ。紅筆に水を含ませて、寒紅を撫でると、この玉虫色からとてもきれいな紅色が出てきます

寒紅(かんべに)

寒中に作った紅のことで、色が特に鮮明で美しいとされる、この時期に作られた紅は品質が優れ、貴重とされた。原料はベニバナ。水を含ませた紅筆などで紅を溶いて使う。

 

冬の季語~青写真(あおじゃしん)/日光写真(にっこうしゃしん)

櫂先生 次は青写真(日光写真)。この日光写真というものは種紙(たねがみ)のことです。昭和の時代、雑誌の付録なんかでよくこういう日光写真の種紙が付いてきたそうです。そのためすごく昔の有名人がたくさんモデルになっています。これ(写真下)は昭和20~30年代のものかな。この種紙を使って、下に感光紙みたいなものを敷いて、しばらく日光に当てるんです。そうするとぼんやりと絵が浮かび上がってきます
季語部屋

 

櫂先生 日光写真は歳時記では「青写真」とも言います。これ(写真上)は日光写真の豪華版で、ネットオークションで買いました。結構値段が高く設定されてるのよね、許しがたい金額でした

はんな (笑)

櫂先生 でも豪華版の日光写真に、今どきのいい感光紙を敷いてみても、やっぱりぼんやりとしか浮かび上がらないんですよね。ぼんやりしてるでしょ? それで、この日光写真というのは、冬の季語なんです。どうして冬の季語なのかなって考えていたんですけど、たぶん冬のぽかぽか日和の日、つまり小春日和にこれで遊んだんじゃないかなと思いました

林先生 なるほどね。この「HIBARI」っていうのは美空ひばりさんのことですか?

櫂先生 そうそう。そうなのよ。でもこの当時のローマ字ってすごく適当なの!

はんな ボーイングとかつづりがひどい(笑)

さとは 本当だ(笑)
季語部屋

 

櫂先生 これは東京タワーね。でもつづりは変

はんな (笑)

櫂先生 東京タワーはいつ造られたかというと、昭和33年です。なので、この日光写真は昭和33、34年ぐらいのものではないかと推測しています。本当にいい加減なつづりだから、結構おもしろいんですよ。スケートも「Sukeito」になってるし、名犬アレックスって、いったいなんでしょうね。たぶん人気キャラクターだったんだと思いますけど
さとは 本当にたくさんありますね
櫂先生 買いあさったからね(笑)
青写真(あおじゃしん)/日光写真(にっこうしゃしん)

露光により青色に発色する鉄塩類などを塗った感光紙に、原図をのせて焼き付ける複写技術や、そうして現像された写真のこと。冬の季語で、晴れた日に日光に当てて絵を浮かび上がらせて遊んだとされる。雑誌の付録などによく見られた

 

冬の季語~かんじき

櫂先生 あ、そこにあるのはかんじきですね。「かんじき」って何だと思います?
さとは 靴! 雪道を歩く時の、靴
はんな なんかざっくざっくと行けそうな……
季語部屋

 

林先生 歩くときに、かんじきを靴につけておくとあんまり雪の中に沈んでいかないってことですよね?
櫂先生 そう、雪道を行くのに使うの。かんじきも好きって言ったら、いろんな方が送ってくださって(笑)

はんな どうして沈まないんですか?

櫂先生 まあ軽く沈みますけど、この底面積が広くなるおかげで、重さが分散するということですね

かんじき

雪の上を歩く道具のこと。体重を分散させることで雪の上を歩きやすくする、木と縄で作った履物で、英語ではスノーシュー(Snow shoe)と呼ぶ

 

冬の季語~ねんねこ

櫂先生 これも私はネットで買ったんですが
季語部屋

 

はんな 半纏(はんてん)ですか?

さとは 褞袍(どてら)?

櫂先生 いいえ、半纏でも褞袍でもありません

林先生 ねんねこですね
櫂先生 その通り、ねんねこです

さとは ねんねこ?

林先生 半纏とねんねこ、どういう違いがあるんですかね

櫂先生 ねんねこ半纏は、半纏ではあるんだけれども、お子さんをおんぶするときに使うところが違います

林先生 なるほどね

櫂先生 (広げて見せながら)意外と大きいでしょ? せっかくだから袖通して着てみたら?

はんな いいんですか?

さとは やった~!

櫂先生 ちょっと立ってみてくれる? 意外と着丈が長いんです
さとは 本当だ
季語部屋

 

櫂先生 ねんねこと一緒にこれも買っておいたの。持ってみて
季語部屋

 

はんな 赤ちゃんをあやすやつだ!
櫂先生 そう、あやすおもちゃ。あやすおもちゃは季語じゃないんだけど、ねんねことコーディネートするためのアイテムとして、ネットで買ったの(笑)。ねんねこには本来、ビロードの替え襟をつけないといけないんです。襟は汚れるので。NHK俳句の兼題にしたときに投句されたもので、結構「赤ん坊の足が見えてる」なんてものがあったんですよね
林先生 ああ~なるほどねえ
櫂先生 そういう句がかなり多かったんです。でも実物を見るとわかるけど、このねんねこという衣装は、かなりゆったりとしていて、しかも意外と着丈が長いんです。だからそんなことはありえない。私も自分でねんねこを買ってみてわかりました。このねんねこは昭和30年代のもの。着心地はどう? 意外と温かいでしょ?
さとは 温かい!
櫂先生 というわけで、これがねんねこですね。お子さんをおんぶすることに特化した着物です
ねんねこ

赤ん坊を背負った上から羽織る広袖(ひろそで)の綿入れ半纏。着丈が長く、すっぽりと体を覆える

 

冬の季語~角巻(かくまき)

櫂先生 これもいただいたもので、ちょっと重たいんだけど……新潟で使われていた角巻(かくまき)だそうです
季語部屋

 

はんな かくまき……

櫂先生 帽子をかぶって、そしてこれをすっぽり羽織って、マントみたいに着るんですね

さとは すごい!

林先生 なるほどねえ

櫂先生 ちょっと着方が難しいので、なかなか使う機会がないんですが……
角巻(かくまき)

四角い形をした毛布の肩掛け。背の高さに応じて三角に折って着る。別に帽子をかぶることが多い。おもに、東北地方などの寒冷地で、外出の際に、女性が防寒着として用いる

 

新春の季語~宝船

櫂先生 それでは新年の季語をご紹介しましょうか。この「宝船」というのは、いい夢を見るために枕の下に敷いて寝るものです
季語部屋

 

櫂先生 おもしろいのは、宝船の絵には、必ず
「長き夜の遠の睡(ねむ)りの皆目醒(めざ)め 波乗り船の音の良きかな」
という歌が記されていること。みんな同じ歌なんですよ。そしてこの歌、実は上から読んでも下から読んでも同じなの

はんな ああ~!

櫂先生 回文になってるんですよ。非常におめでたい歌です。宝船にはいろんなタイプのものがありますけど、歌はすべて同じ。覚えておくといいのではないかと思います

林先生 正月にはこれを枕の下に敷いて寝たわけですね

櫂先生 そうです。ただし、敷いて眠る日が元日なのかそうでないのかとかいうのは各地で違います
季語部屋

 

林先生 確かに、元日の夜じゃなくて2日の夜っていうのもありますよね
櫂先生 はい、いろんな説があります
宝船

よい初夢を見るために、枕の下に敷く、宝を満載した船の絵のこと。七福神が乗っているものもある。元日もしくは正月2日の夜に敷いて寝るとされるが、諸説ある。宝船の絵には縁起の良い回文の歌が記載されている

 

新春の季語~藁盒子(わらごうし)

さとは これはなんですか?
季語部屋

 

櫂先生 ああ、これね! これも新年の季語だった
はんな えっ、これ新年の季語なんですか!?
櫂先生 これは何かというと、門にぶらさげて、ここにおかゆとかお餅とかを入れておいて、門の神様に召し上がっていただくものなんです
はんな 門の神様!?
櫂先生 そう、門の神さまは「門の神(かどのかみ)」「門守の神(かどもりのかみ)」と言います。これは門の神様のためのもので、「わらごうし」と言い、とてもめでたいものです。地域によっていろいろと形が違うもののようですが……漢字では、藁に、飯盒(はんごう)の「盒(ごう)」の字、それに子どもの「子」と書きます
藁盒子(わらごうし)

正月の間、供物を入れるのに用いる藁で編んだ籠。おかゆやお餅などの供物を入れて門松にくくりつけておき、門の神様に食べていただく。地域によってさまざまな形状がある

 

新春の季語~懸想文(けそうぶみ)

櫂先生 最後に、これは懸想文(けそうぶみ)です
季語部屋

 

はんな けそうぶみ……
櫂先生 「懸想」というのは「人を好きになる」という意味です。時代劇を見ているとよく出てくる言葉です。懸想文は恋が成就するという縁結びのためのもので、またとてもめでたい季語です。懸想文は、今では京都の須賀神社にしかないものですが、非常にありがたいことに、これは関西の人が送ってくれたものです。昔は、懸想文売りというのがいて、非常におもしろい格好をしていて。マスクのようなものをして、売り歩いていたそうです
季語部屋

 

懸想文(けそうぶみ)

江戸時代、正月の元日から15日の間に京都の町などで売られたおふだで、恋愛成就の効果がある。現在では京都の須賀神社でしか買うことができない。「懸想」というのは「人を好きになる」という意味

 

季語部屋退室

はんな 櫂先生、季語部屋にお招きくださいまして、本当にありがとうございました

さとは ありがとうございました。初めて見るものばかりでした

櫂先生 それはよかったです。初めて見るだろうものをできるだけ集めたつもりでした

林先生 歳時記で見たことはあっても、なかなか実物を見たことはないものばかりでしたので、非常に勉強になりました

櫂先生 席題に出すと、みんな結構喜んで句を作ってくれます。なので、席題にするといいかもしれません。いつでもお貸ししますよ~

さとは 席題ってなんですか?
林先生 句会の場で、その場で季語を提示して「じゃあこれで作ってください」って
はんな え、その場で作るんですか!?
櫂先生 そうです
はんな 瞬発力が求められそう……
さとは 思いつかなかったら焦りそう……
櫂先生 でも席題の方がみなさんいい句を作られることが多いですね
はんな ええ~!
櫂先生 みなさん慎重に作りますからね。瞬発力で
林先生 (笑)

櫂先生 兼題(けんだい)として、あらかじめ出している場合は、みなさん結構いろいろとひねってくるんですよね。それが返って仇になってしまうこともあるかなと

林先生 なるほど

櫂先生 とにかく、いろいろな季語があるということをわかってもらえたでしょうから、これからぜひ実作に活かしてくださいね……それにしても2人、ねんねこが似合ってて可愛いかったわね

こうして放課後819倶楽部の面々は季語部屋を退室した。
季語部屋を出た途端、何故かまた道に迷ったことは言うまでもない。

【次回へ続く】