Variety いろいろ

放課後819倶楽部【第20回】怒涛の句会

説明しよう!

放課後819(ハチイチキュー)倶楽部とは——
俳句を1から楽しく学ぶことをコンセプトに立ち上がったwebサイト上の倶楽部である。

紹介しよう!

倶楽部員は3人。

顧問は青山学院中等部の国語科教諭、林謙二先生。
第20回の倶楽部活動の様子をここに報告しよう。
(なお、倶楽部活動はリアルと仮想の両方で行われる。)

怒涛の句会

林先生 放課後819倶楽部の第20回目の活動を行います。今回は句会を行います。2024年12月に開催するイベントで倶楽部員たちの敵となる松島先生も参加されます

松島先生 敵と言われると……よろしくお願いします

林先生 それでは早速句会を始めましょう。皆さんには、今日までに2句、「秋風」1句と当季雑詠(※今の季節を何でも好きに詠んでよいこと)1句を詠んできてもらっています。それをまとめたのがこちらです

句会

 

松島先生 2句に絞って提出するのが大変でしたよね

さとは ええっ、1句考えて限界きたのに

まお でも、これ数が合わない気が……

林先生 今日欠席の野澤先生が3句出しているからです

はんな 3句も!

林先生 今日来られなかったのが、よほど悔しかったのでしょう。さあ自分の句以外でよいと思った句を選んでください。以前の句会でも言ったとおり、こういう句を選ばなくてはいけないとか、そういうルールはありません。「ああ、わかるわかる」と共感できる句でも、「おもしろいな」と思った句でもいいです。とにかくいいなと思った句を選んでください

さとは う~ん

林先生 そんな唸るほど難しくないでしょ。あっ、もしもこの中で言葉の意味がわからなかったら、その場で聞いてください。本当だったら辞書で調べてくださいと言うところだけど、今日は時間も限られているので。私も答えられる範囲で答えますし、もし私が答えられなかったら、松島先生が答えてくれます

松島先生 ええ、分かんないですよ

さとは 二番の“竜胆の君に応える陽光よ”のこれは?

林先生 これ(竜胆)はりんどう。植物の名前だ。こんな花だ

819倶楽部

 

さとは ああ、りんどうってこういう字(竜胆)を書くんですね。あと、それから、四番の“爽籟(そうらい)にまぶた開けばライム色”の……

林先生 ああ、この爽籟というのは、秋風の傍題(ある季語の変化形。この場合、秋風の変化形。類語)になります

さとは いえ、ライムって何でしたっけ?

林先生 そっちかあ。ライムはレモンに似たような、う~ん柚子みたいな感じかな。緑色の皮の柑橘だ。だからライム色だから、緑色、薄い緑色かな

819倶楽部

 

林先生 六番の“秋風やカヤック二艘並びたり”のカヤックは分かるね? 一人乗りのボートみたいなものだ。七番“本を読む右手厚きや寝覚月”の寝覚月(ねざめづき)というのは、ちょうど夜中に出始める月のことです

さとは 八番の“天高し黒鹿毛(くろかげ)の馬のいななく”の……

林先生 ああ、黒鹿毛というのは、馬の毛並みの色だ。黒味がかった赤褐色の毛色のことだ

819倶楽部

黒鹿毛(Wikimedia Commonsより)

 

 

さとは いななくは?

林先生 そっちかあ……馬がひひぃーんって鳴くことだ

さとは なるほど

林先生 十一番の“秋風や尾のかすかなる箒星”の箒星(ほうきぼし)は彗星のこと。十三番の“書に埋もれ見えぬ師を呼ぶ保己一忌”、この保己一忌(ほきいちき)というのは……これはちょっと難しいな。塙 保己一(はなわ ほきいち)という人のことを歴史の時間に習わなかった?

塙 保己一

 

はんな 習ってないです

林先生 私もさっきこれ(電子辞書)で見たんだけど、塙 保己一は江戸時代の国学者だそうです。ちなみに、亡くなった日のことを~忌(き)と言います。例えば、みなさんのよく知っている太宰治は治忌とは言わず桜桃忌(おうとうき)といいます。桜桃とはさくらんぼのこと。太宰の好物からつけられたそうです

はんな はい、文学で習いました

林先生 さて、そろそろ選べましたか

松島先生 (選ぶのが)難しいな、これ

林先生 (笑)では、いきましょう。新入生のまおさんから
まお まお選 秋風や進路調査を書いて消し
さとは さとは選 竜胆の君に応える陽光よ 
はんな はんな選 売り切れと手書きの札や茸汁
松島先生 松島選 秋風や進路調査を書いて消し
林先生 林選 秋風やカヤック二艘並びたり

 

わたしがこの句を推す理由!

林先生 では1句ずつそれぞれコメントをいただければと思います。まず、一番

一 秋風や進路調査を書いて消し

 

林先生 まおさん、どこが良かったかコメントをお願いします
まお まだ選択(科目)だけなのですが、めっちゃ迷ったので気持ちがわかるなあと。それから、秋風をさっき調べたら、特に決まった風向きがないってあって。それこそ「書いて消し」って迷っているのが、すごくあっているなと思いました
林先生 いいですね、ちゃんと「秋風」のことが理解できてますね。一方で「秋風」は寂しげな感じがするところが、「もしかしたら自分はこの道に行きたいんだけど、ダメかなあ」って諦めちゃっているところもあるのかもしれません。作者は……野澤先生です
まお えっ、野澤先生? なんか悔しい

二 売り切れと手書きの札や茸汁

 

林先生 はんなさん、いかがですか

はんな 秋になって、急に涼しくなって、肌寒くなったから、茸汁を飲む。売り切れというのが手書きなんで、急いで書いたんだなって伝わってきて。秋らしいな、と思いました

林先生 そうですね(照)私の句でした、すいません。なんともコメントのしようがないです。ありがとうございます

三 竜胆の君に応える陽光よ

 

林先生 さとはさん、いかがですか
さとは 君に応えるっていう「応える」というところが、照らすとかではないのが良いなと。「竜胆の君が主人公」というところに「太陽が主人公じゃなくて、君が主人公なんだよ」っていうメッセージがあっていいなって思いました
林先生 はんなさんは?
はんな 竜胆は花の色が暗めの紫色なのに対して、陽光が明るい色。温かい優しい光でさしているのがコントラストがあって綺麗だなと思いました
林先生 色のコントラストもそうだし、陽光が主役じゃなくて竜胆だという捉え方もいいと思います。作者は?

まお はい

林先生 おおっ、やりますね。では次は

四 爽籟にまぶた開けばライム色

 

林先生 広報部の方達が「いい」って言っていましたね

広報部

林先生 コメントをどうぞ

広報部 秋風を爽籟(そうらい)としているところがすごく爽やかなのと、ライムも爽やかな柑橘というイメージがあるのが、そこがすごくあっている、とてもきれいな句だなと思いました

林先生 確かにきれいですね。それに爽やかなイメージが重なっているなあと思います。作者はどなたですか?

まお はい

林先生 お~、まおさんでしたか。ちょっとレベルの高い話で言うと爽籟とライムだと重なりすぎかなとも思います。ダメ押しみたいな感じになっている気もします
まお ライム色という色の意味で考えたんです。調べたらライム色って青春とかチャレンジとかいう意味があったから、ちょうど1年の半分の秋っていう時に何か新しいチャレンジをしてみようと

林先生 深いですね。なるほどね。爽やかさだから上手く被っちゃったんだ。本人にその意図はなかったんだ

まお はい

五 秋風に息つく駅の昇り口

 

林先生 まおさん、コメントをお願いします

まお 昇り口とあるので、出口のことと捉えました。風をあまり感じない駅から、外に出る。すると秋風が吹いてきて秋を感じる。というのが良いと思いました

林先生 そうですね。階段ではなく、昇り口にしたっていうところに作者の意図があるんだろうな。どなたですか

はんな はい

林先生 はんなさんの句でしたか。解釈はあっていますか
はんな はい。電車の中は暑いよな、駅出て涼しいなって、一息つく感じです
林先生 なるほど。次は、わたしがコメントをしましょう

六 秋風やカヤック二艘並びたり

 

林先生 カヤックが二艘並んでいるという光景だけを詠んでいるんだけど。そこに秋風の寂しさ。でも二艘だから寂しくない。そのあたりを上手くバランスとっているかなあと
林先生 一方で爽やかな秋の風というところで、むしろ爽やかさが感じられるかなあと思いました。作者はどなたですか?
松島先生 わたしです
林先生 もしかしてこれって裏磐梯キャンプの下見?
松島先生 そうです

一同笑い

七 本を読む右手厚きや寝覚月

 

林先生 はんなさん、コメントをお願いします
はんな はい。秋の夜長、読書の秋と言うじゃないですか。だからついつい本に熱中して、気づいたら月が昇ってしまったという感じなのかなあと。寝覚月と言うので
林先生 夜も集中して本を読んでいるという光景で、秋の夜長を詠んでいますね。これは……作者は野澤先生です。それでは、選ばれなかった句についても少し触れましょう

八 天高し黒鹿毛の馬のいななく

 

林先生 これは、すわりがいまひとつかな。もう1音足してもよい気がします。天高く馬肥える秋と聞いたことがあるかと思いますが、天高くと馬を詠むのはある意味“てっぱん”というかありがちなので、ここでは馬ではなく違うものをもってくるか、あるいは天高くという表現ではない、別の方が良いかもしれません。あまり一般化された表現でない方がよかった気がします

九 秋風に吹かれてとまるプロペラよ

 

林先生 これはなんのプロペラなんでしょうか。ヘリコプターのプラペラならちょっと怖いんですが。点が入らなかったのは、おそらくそう感じた人が多かったのかと思います。風車なのかな? ちなみに風車は春の季語です
さとは えっと、言っていいですか? これわたしの句なんですけど。扇風機のプロペラのことです。扇風機って言いたかったけど、季語重なっちゃったから。プロペラという語しかなかったんです

林先生 なるほど、ちゃんと季重なり(きがさなり。※1句に季語を2つ以上使うこと。例外を除き、良しとはしない)を避けたんだね。扇風機は夏に使うんだけど、秋になっても出しっぱなしってわけでしょ。そう意味で中心は秋風の方だから、季重なりにしてもそんなに問題にはならないかな

さとは はい

林先生 それにしても、プロペラだと分かりにくくなっちゃうね。扇風機って普通、羽根っていうんじゃない? どうだろう

松島先生 羽根

さとは え、羽根なんですか? プロペラですよ

林先生 普通はさ、プロペラと言えば、プロペラ機とか、飛んでいっちゃうやつを言うんじゃないかな

さとは そこは譲れない

一同笑い。
林先生 まあまあ、これは結果的に言うと扇風機で良かったかなという気がします

十 紅玉の光落つ指夜長酒

 

はんな 母がワインを飲んでいるときに、薄い明りのせいで、ルビーの指輪のようになっていて、それが綺麗だなと思って詠みました

林先生 なるほどルビーの指輪のことを紅玉って言ったんだね。あ~なるほどね。紅玉というんでリンゴかと。赤玉というと赤玉のワインという有名なワインがあります。そういうのが思い浮かんでしまってなかなか分かりづらかった気がします。……赤玉ワイン、みなさん知らないかな

松島先生 知っていますよ

林先生 十一番の句“秋風や尾のかすかなる箒星”は私の句なので、コメントは控えます

十二 チョコじゃない今では栗が食べたいの

 

林先生 これにしようかと思って迷いました。面白いなと思いました。正直な感じで、これはこれでいい句でした。十三番

十三 書に埋もれ見えぬ師を呼ぶ保己一忌

 

林先生 ~忌というのは季語になるんですが、とても使い方が難しい季語です。たまたまその日がそう(命日)だからではなく、その人に関わりのあるようなことを詠みます。すみません。私は塙 保己一のことなんてよく分からないんだけど、書に埋もれ見えぬ師を呼ぶだから、きっと本をたくさん読んでたって人なんじゃないかなと思います
さとは なるほど
林先生 倶楽部生たちは、久しぶりな割には良い句を作るなと思いました。それではこれで句会を終わりますが、イベントの本番が12月15日です。あともう1、2回、自主トレ句会をしますか?
はんな はい! お願いします
林先生 では今度は野澤先生の日程を優先して開催しましょう。ありがとうございました
【次回へ続く】