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放課後819倶楽部【第13回】季語部屋歳時記 夏編!

説明しよう!

放課後819(ハチイチキュー)倶楽部とは——
俳句を1から楽しく学ぶことをコンセプトに立ち上がったwebサイト上の倶楽部である。

紹介しよう!

倶楽部員は2人。

顧問は青山学院中等部の国語科教諭、林謙二先生。
第10回の倶楽部活動の様子をここに報告しよう。
(なお、倶楽部活動はリアルと仮想の両方で行われる。)

季語部屋にて

説明しよう!
季語部屋とは、俳句の季語を集めた部屋のことであり、俳人の櫂未知子(かいみちこ)先生が管理されている。
季語には大きく分けて2種類――抽象的な季語(虹、祭など)と具体的な季語(レースや日傘など)があるが、季語部屋には具体的な季語が集められている。
放課後819倶楽部の面々はその季語部屋に特別に入室していた。

林先生 それにしても季語部屋には、たくさんの季語、季節を表す物がありますね! さすが季語部屋だ

櫂先生 いろいろな方からも季語をいただくので、おのずと多くなりました

櫂先生

櫂 未知子先生

当代一の俳人の一人にして、季語が息づく部屋を管理されている。青山学院大学文学部日本文学科卒業、同大学院修了。第一句集『貴族』で中新田俳句大賞、『季語の底力』で俳人協会評論新人賞、第三句集『カムイ』で俳人協会賞、小野市詩歌文学賞を受賞。著書に『季語、いただきます』などがある。同人誌「群青」共同代表。公益社団法人俳人協会理事。

 

夏の季語~蚊遣り香(かやりこう)

櫂先生 そうだ! 生徒さん達に質問。これ、何だか分かる? ヒントは夏に使うものです
季語部屋

はんな 穴が開いているから、蚊取り線香を中に入れるものでしょうか?

櫂先生 正解。蚊遣り香(かやりこう)いわゆる蚊取り線香入れです。ブタの形が有名ですが、この猫のように他にもいろいろと種類があります。蚊遣り香の季節は夏。夏は蚊が多いですからね

夏の季語~蠅帳(はいちょう)・蠅除(はえよけ)

櫂先生 夏に使うものといえば、これは何だと思います?
季語部屋

はんな あっ、食べ物に被せる

櫂先生 正解! 食べ物に被せ、蠅などの虫がたからないようにするものです

さとは はんなちゃんすごい! よく知ってたね

はんな おばあちゃんが使ってて。わたしはそっと持ち上げて、よく中の物をつまみ食いしてました(笑)

櫂先生 ちなみに名前は知ってる?

はんな 名前は分からないです……

櫂先生 これはね、蠅帳(はいちょう)または蠅除(はえよけ)っていうの。昔ながらの安いものは骨が4本と少なく、すぐ浮いちゃって役にたたないこともあったのよ

蠅帳(はいちょう)または蠅除(はえよけ)

歳時記には「蠅除の四隅の一ついつも浮く」という後藤 比奈夫さん(俳人、1917―2020))の句が例句として載っていて、安っぽい(骨が4本の)ものは役に立たないという様子が詠まれている

 

夏の季語~蠅取り器(はえとりき)

櫂先生 そうだ! これ。これは何だかわかる?
季語部屋

 

櫂先生 液体をここ(内側の溝)に入れて使います。できれば甘いジュースやワイン、あとはめんつゆなんかも入れるといいと言われています
季語部屋

 

はんな めんつゆ!?

さとは う~ん……全然わからない

櫂先生 これはね、蠅取り器(はえとりき)。よく見ると、足がついていて、地面との隙間があるの。内側の溝にジュースやワインなどの液体を入れておくと、蠅はその匂いに惹かれて隙間から入ってきて、出られなくなっちゃうっていう仕組み

季語部屋

 

はんな 蠅取り器(はえとりき)も季節は夏なんですね
櫂先生 夏です。虫、そして虫に関するもの、蠅とか蚊とか迷惑な虫を取ったり避けたりする道具も夏の季語が多いわね
季語部屋

 

櫂先生 蚊遣り香も、この蠅取り器もそうだし、蠅叩きに蠅取りリボンも夏の季語
さとは 蠅取りリボンって何ですか?
櫂先生 蠅取りリボンっていうのは、ぶら下げておいて蠅を取る道具のことね。缶から出して端を持って上に持ち上げると、くるくるくるっと(らせん状に)長い蠅取り紙が出てくるの
季語部屋

蠅取りリボン(イメージ)黄色いらせん状のリボンが蠅取り紙

 

林先生 そう。紙はベタベタしているから、蠅が一度とまるともう離れられない

櫂先生 蠅取りリボンは、お料理屋さんとかお魚屋さんとかで、今でも使われているのよ。食べ物を扱うお店では蚊遣り香を焚けないから

蠅取り器(はえとりき)

ガラス製で、内側には液体を溜められるようになっている。内部に蠅が入り込むと出られなくなってしまうという構造

 

蠅叩き(はえたたき)

蠅を叩く道具。他の蠅関連の道具と同じく、こちらも夏の季語とされる

 

蠅取リボン(はえとりりぼん)・蠅取り紙(はえとりがみ)

吊るしておいて蠅を絡めとる、粘着質な紙のこと。蠅取り紙も夏の季語だそう

 

夏の季語~竹夫人(ちくふじん)

櫂先生 これは何か分かるかしら? ちなみにオブジェではありません
季語部屋

 

はんな 何だろう……何かを入れる、入れ物?

さとは 照明!

櫂先生 入れ物でも、電気でもないの。ヒントはね、これは夜寝るときに使うもの

はんな 寝るとき!?

さとは じゃあ、枕!

櫂先生 惜しい。これはね、抱き籠(だきかご)。竹夫人(ちくふじん)っていうものです。どうぞ、持ってみて

はんな こんな感じで寝るということですか?

季語部屋

 

林先生 そう、そう。そういうこと

櫂先生 寝苦しい夜に涼むために使うの。前に竹夫人を持って仕事でテレビ局へ行くときにタクシーに乗ったのよ。そうしたら運転手さんがチラチラとミラー越しに私の方(後部座席)を見てたわ

はんな 竹夫人を持って乗ったら、運転手さん絶対気になりますよね(笑)

竹夫人(ちくふじん)

暑い日に抱えて眠る、竹でできた抱き枕のこと。荒く編んだ筒状の抱き枕で、中を風が通り抜けることで涼しく眠ることができる。基本的には男性が使う道具で、韓国から日本に入ってきた(韓国の布団はダブルサイズが多く、寝るときに暑いので、涼むために抱きかかえて眠ったとも、夫婦の間に程よい距離感を生んだとも)といわれている。竹夫人を使用していた男性が亡くなった際には一緒に処分されるという

 

夏の季語~陶枕(とうちん)

林先生 あ、ここにもまためずらしいものが。これも竹夫人(抱き枕)に近いものですね
季語部屋

 

さとは えっ、枕なんですか?

櫂先生 そうです。これは陶枕(とうちん)です

はんな なんか穴があいてる……

林先生 陶枕(とうちん)はその名の通り、陶器でできている枕で、冷たいから熱をとることができる。その穴もおそらく熱を逃す役割をしているんじゃないかな

櫂先生 ただし硬すぎるので、昼寝のときだけ使ったのではないかという説があります

林先生 なるほど昼寝用か。そう言えば「昼寝」も夏の季語でしたね
はんな 昼寝に季節があるんですか?

林先生 そう。やっぱり暑い時期にちょっと涼しいところで寝るっていう感覚だったんじゃないかな

さとは 1年中寝ちゃいけないのかぁ

陶枕(とうちん)

陶磁器製の枕で、表面には熱を逃がすための小さな穴があいている。一説によれば昼寝専用の枕だったという。実際に触れてみるとひんやりしている。その歴史は古く中国から伝来した

 

夏の季語~薬玉(くすだま)

はんな あの~竹夫人(抱き枕)の隣にあるのはなんですか?

林先生 これ?

季語部屋

 

櫂先生 あ~あ、それは薬玉(くすだま)

はんな 薬玉って割るイメージがありましたけど……

さとは 折り紙で作った薬玉みたい

林先生 ああ、確かにそうだな。薬玉って季節はいつかわかる?

はんな おめでたいから新年かな?

さとは 薬玉といったら運動会のイメージしかないな

林先生 そうだね、運動会でも使われるね。櫂先生、薬玉の季節はいつなんでしょうか?

櫂先生 薬玉の季節は初夏です。厄除けとして、主にこどもの日に使います。薬玉の別名は「長命縷(ちょうめいる)」。長い命に、「縷」という漢字を書きます。「縷縷(るる)たる~」とか「一縷(いちる)の望み」とか言うときの字です。「縷」は糸のことで、薬玉の下に長い紐がついてるでしょ? だから長命縷と呼ばれています

季語部屋

 

薬玉(くすだま)・長命縷(ちょうめいる)

沈香、丁字などの香料を錦の袋に入れて玉にし、菖蒲や蓬などを飾って長い五色の糸を垂らし、家の柱に掛けるなど、こどもの日(端午の節句)に厄除けのための飾りとして用いられた

 

夏の季語~掛香(かけこう)

櫂先生 薬玉に対して、今度は持ち運べるお香を紹介します。これもやはり夏の季語なんですが、掛香(かけこう)っていいます。夏は蒸し暑くて、汗をかいて、そのにおいが気になるので、掛香を持ち歩いたり、お部屋に掛けておいたりしたそうです
季語部屋

 

はんな なるほど

掛香(かけこう)

汗のにおいなどを防ぐため、香料を小さな絹袋に入れ、首にかけたり左右の袖に入れたりした。携帯するお香。室内に吊るしておくこともあったそう

 

夏の季語~風鈴

櫂先生 次は風鈴。講演などで風鈴を紹介するときは目を閉じて4種類ぐらい聴き比べてもらって「どれが風鈴でしょうか?」ってクイズをするんですけど、意外とわからないものですよ
季語部屋

 

櫂先生 まさか全部風鈴だとは思わないで聴いてますから(笑)。このクイズの目的は季語に対して先入観を持たせないこと。よくテレビCMなんかで、風鈴が鳴っている音を耳にしていますよね。あのイメージが強すぎて、みんなその音に引っ張られちゃう。だから先入観をなくすために、クイズを出してます。ちなみにこの黄色いのが、江戸風鈴です

江戸風鈴の音。左端の▶マークをクリック(タップ)して聞いてみてください

林先生 貝殻でできているものなんかも見かけることがありますけど、あれも風鈴なんですか?

櫂先生 はい、風鈴です。貝殻でできているものは貝風鈴っていうんですよ

風鈴

夏の風物詩でテレビCMなどで目にする機会も多いが、その種類や素材、音色はさまざま

 

夏の季語~浮いて来い(ういてこい)

櫂先生 音で涼んだ後は、こちら↓
季語部屋

はんな ペットボトルの中に、何か入っている! あっ顔がついてる!! 可愛い~

櫂先生 これはね「ウォーターゴースト」

さとは 英語なんですね

櫂先生 商品名はね。実は夏の季語に「浮いて来い(ういてこい)」というのがあるんです

さとは ういてこい?

櫂先生 そう。そのペットボトルの中に入っている、顔がついている小さい人形みたいなのが商品名「ウォーターゴースト」として売られていた「浮いて来い(ういてこい)」

季語部屋

「浮来」、商品名は「ウォーターゴースト」

櫂先生 「浮いて来い(ういてこい)」っていうと動詞に聞こえるけど、「浮いて来い(ういてこい)」は名詞。この「浮いて来い(ういてこい)」の入ったペットボトルをね、握ると沈み、手を離すと浮いてくるんですよ

さとは えっ、おもしろい!

櫂先生 おもしろいでしょ。よかったらやってみてください

「浮来(ういてこい)」を実践!?

櫂先生 圧力の関係で沈んだり浮いたりするんですよ。理科の先生はよくご存じです。いわゆる「浮沈子(ふちんし)」というもので、理科の実験で作ることもあるそうです。うちの「群青」(=同人誌)の子が、ガラスじゃなくてナットみたいなもので作ったって言ってましたね

林先生 夏の暑いときに、昔はこれで涼んでたってことですね

櫂先生 そう。気分が涼むの。見た目で涼むものです。風鈴と一緒で、実際には涼しくならないけど。ちなみに「浮いて来い」は正岡子規の時代からあったもののようです

浮いて来い(ういてこい)

水を満たした試験管にガラス製の人形を浮かべ、水面への圧力を変えることによって、人形を浮き沈みさせるおもちゃのこと。櫂先生曰く、炭酸の入ったペットボトルで遊ぶのがお勧め(圧力に強いため)。なお正岡子規の時代からあったと言われている

 

夏の季語~水中花(すいちゅうか)

櫂先生 浮いて来い(ういてこい)と同じように見た目で涼む季語を実験しながら紹介しましょうか。こちら↓は水中花(すいちゅうか)
季語部屋

 

さとは あっ、可愛い

櫂先生 「ある日妻ぽとんと沈め水中花」なんていう句もありますが、それがよくわかります。おもりがあるから、音が「ぽとん」なんですよ。水の中に入れてみて。そして耳をすまして

さとは 本当に、“ぽとん”とか“すとん”って感じの音
櫂先生 さっきの句を見ると、水中花におもりがついているっていうことを作者がよく知ってて詠んでいたことがわかりますよね。句が詠まれた当時、水中花は普通に売られていたんです。さて、水の中で開いた水中花をよく見てみて。泡がついているのがわかるでしょ?
季語部屋

 

はんな はい
櫂先生 「泡ひとつ抱いてはなさぬ水中花」っていう句もあるんですよ。句を聞いて、なるほどなって思いますよね。泡がちゃんとついていますから。それから、他にも「水中花培ふごとく水を替ふ」。「水を替ふ」っていうのは「水を替える」って意味ですね。何日も置いておくと水が濁ってくるので
林先生 う~ん、なるほど
櫂先生 水中花も見た目が涼しいというところから、夏の季語となっています。実際に涼しいわけではないですけど。ちなみに昔、大工さんは鉋屑(かんなくず)に色をつけて遊んだそうなんですが、それが水中花の始まりだそうです
はんな まさか大工さん発祥だとは、驚きです
櫂先生 そうでしょ。意外よね
林先生 こうして見ていると、やっぱり涼しげですね
さとは 花が開くのを待ってる時間も楽しいです。それにハーバリウムみたいでキレイですね
水中花(すいちゅうか)

水の中に入れると、開いて草花などの形になる造花。コップなどに入れた水の中に沈め、開花させる。櫂先生いわく、大工が鉋屑に色をつけて遊んでいたのが水中花の始まり

 

夏の季語~水鉄砲

さとは これは何ですか?
季語部屋

 

櫂先生 それは水鉄砲
はんな え!水鉄砲!?
櫂先生 水鉄砲にもいろいろな種類があってね。若い子にこの水鉄砲を手渡すと、なんと、ここから(分解して)水を入れようとするのよ
季語部屋

 

はんな これは、先端を水に入れて、スポイトみたいに中に水を吸い上げて使うんじゃないんですか?

櫂先生 そうそう、それが正解

水鉄砲

子どもたちが水を入れ、水を飛ばして遊ぶ、おもちゃ。暑い夏に涼むためのおもちゃということで、夏の季語とされている

 

夏の季語~起し絵(おこしえ)/立版古(たてばんこ)

櫂先生 夏の季語で最後にもう一つ紹介したいものがあります。「これは何だ?」って感じですが、これも季語。起し絵(おこしえ)という季語で、立版古(たてばんこ)ともいいます。確かに絵を起こしてありますよね
季語部屋

 

櫂先生 すべて紙を切り抜いて、板に貼り付けて、作ったものです。作ったあと、屋外に出して、後ろから明かりを灯したらしいんですよ。夕涼みで出かけた人たちが楽しめるようにということで飾っていたものだそうです。こちらの原画は歌舞伎『義経千本桜』の一場面です
季語部屋

 

さとは 本当だ、立版古と同じ場面だ

櫂先生 あっ、こっちの立版古は葛飾北斎の絵が元になっていますね
季語部屋

 

はんな 赤富士だ
櫂先生 立版古って初めて聞いた方も多いと思うんですが、実は美術館に行くとキットが売ってるんです。いろいろな種類がありますけど、とにかく夕涼みの道具だと思ってください。でもこの立版古というものは、紙でできているので完成品がほとんど残されていません。それが残念なんですが、文庫歳時記でも「立版古」という季語を復活させました
起し絵(おこしえ)/立版古(たてばんこ)

建物・樹木・人物などを切り抜いて枠の中に立てると、風景・舞台などが立体的に再現されるようになっている絵のこと。軒先に飾って後ろから光を当て、夕涼みの道具として使われていた

 

【次回 季語部屋秋冬新春編へ続く】