堀田季何先生の「めしませ、一句」【第2回 句会の効用】
2025/07/28
2025年4月、雨の水曜日。新学期が始まったばかりの青山学院中等部――。
まだ真新しい校舎の5階の教室に、堀田 季何(ほった きか)先生の姿があった。
NHK俳句や「お~いお茶」をはじめとする俳句コンテストの審査員としても活躍される俳人だ。
中等部3年生選択授業「俳句」の授業のゲストスピーカーらしく、「俳句」についてスクリーンをバックに語っている。
何やら、興味深い話が聞こえてきた。
“効果的な筋トレ”に当たる、“俳筋力”を伸ばす方法は、ずばり鑑賞すること。しかしながら、それを自分一人で行うのは大変ですよね。そこで句会の登場です。
句会には良いところがたくさんあります。ざっと挙げてみると、
など、良いところを挙げたらきりがありません。一つひとつみていきましょう。
句会の基本は、何人かが集まり、無記名で句を出す、つまり投句します。そして投句された句の中から各自が良いと思う句(自分が作った句以外)を純粋に選んでいく、つまり選句します。この、どの句を選ぶかという選句に身分は全く関係ない。これは茶道とも通じるところです。それこそ句会は庶民と殿様が一緒に行ってもいい。かの松尾芭蕉も自分の殿様と句会を行っていました。もちろん周囲は忖度して殿様の句を選ぶ必要もない。ここで無記名で行うというところが効いてきます。
「誰々さんが作ったから選ばなくては」
「なんであの人は自分の句を選んでくれなかったのか?」
「あの人がこの句を選んだのは、おべっかだろう」
ということには一切ならない。だから人間的なしこりを残さないですむので、ストレスがないですよね。
個人的にこの作者無記名で選ぶ方法は、会社等でも「どの案を検討するか」という際にも使えるのではないかと思っています。
句会では、自分が選んだ(他の人の)句についてコメントをします。その場で見て、すぐにコメントを求められる。するとまず読解力がつく。どう良いのか。コメントには理由がなくてはならない。「好きだから」というのはもちろんあるだろうけれど、「どうして好きなのか」を掘り下げてコメントしていくようにする。するとだんだんと論理的思考力も養われていきます。そして即断力、読解力、判断力、全部が鍛えられるのです。よほど特殊な句会でなければ逆選しない(「なんでこの句を選ばなかったのか」と聞かない)ので、みんながプラスのことを言います。ここが重要です。つまりポジティブフィードバックをするから心理的安全性も担保される。褒め合うけど、しかしダメな褒め合いにはならない。それは選句する際にきちんと理由を述べるからです。
句会は、回を重ねていくと仲間内の選句のレベルも上がっていきます。理路整然とコメントをするようになってくるとみんなのレベルも上がっていく。何度も句会を行えば、必ずみんなが選ばれ、褒められる。全員が磨かれて、その上ポジティブになる。
「最初はどうコメントすればよいか分からない?」
それでも大丈夫。
他の人のコメントを聞けば「ああこう言えば良いんだ」と鑑賞の勉強にもなりますから。他の人の良い言い方を真似していくと自分自身のコメントも変わってきます。そしてコメント力がつけば、それは後々のプレゼン力にもつながっていきます。
ちなみに句会は感性の研修にもなります。だから企業研修として句会を取り入れている企業もあります。新人研修や課長・部長クラスの研修で「会議で企画を検討する際のトレーニング」もありますし、うつ病の方のリワークにも使われています。また高齢者の方々には脳トレにもなります。句会は句作から始まりますので、「見る・歩く・作る・喋る」と、句会まで行えば全部の要素が入っており、脳を鍛えられるのです。
さらにユニバーサルデザインなので、寝てても句を詠める。見えなくても、話せなくても、歩けなくても、聞こえなくても句を詠めます。その上、コロナ禍以降、ネットでつながればどこででもできるようになりました。世界中で同時に句会だってできます。
大学の俳句部の人たちは、面接で褒められることが多いと言います。社長面接やグループ面接の際、実力を発揮できるそうなのです。
句会では初見の句を瞬時に判断し、コメントを言います。だから、何が飛び出してくるか分からないけど、とにかく何か言わなくちゃいけないという場面を経験している。そして句会を行っていくと、メンバーが同年齢じゃないこともある。初対面のおじいさんと句会、という場面もある。そういう経験があると、面接でほぼ初対面の社長や部長が何を言おうが物おじせずに受け答えできる。
「君、いいね」
と言われて結構採用されているそうです。句会で鍛えられてきた力が発揮される好例だと思います。
高校の時、俳句甲子園等で良い成績を残すとAO入試や推薦等で評価してくれる学校が多いそうです。それで実際に大学に入った生徒もいます。まさに俳句で大学に入れてしまう。また、どちらが先かは分かりませんが、頭が良い子は俳句が上手いですし、俳句をやると頭が良くなり成績も上がる。どうも地頭が良くなるようなのです。中高生は特に伸びが早いので、おすすめです。
ここまで句会の効用をお話ししてきましたが、末期がんの方が俳句を作るだけで救われたという話も聞きます。句を詠むだけで、です。俳句は道具も難しい作法も何も必要ないから何歳からでも始められます。70歳から始めても10年、20年のキャリアが築ける、すごい文芸です。ぜひ今日から、一句作るところから始めてみませんか。そしてもしよければ句会に参加してみてください。
「えっ、選択授業でも句会を?」
では今度、みんなで句会をしてみましょう。